笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み
営業で取り扱っている商材の良さが商談相手にうまく伝わりません。価値を伝えるための秘訣はありますか?

 

何かを買おうとするとき、あなたは何を基準とするでしょうか。価格? 品質? 機能? デザイン? もちろん、買うものによって基準に濃淡はあるかもしれません。

 

しかし、「欲しい!」と強烈に心を動かされるほどの価値を認めたとき、初めて財布の中身と相談しているはずです。「安い!」と思っても、欲しいものでなければ財布は絶対に開きません。大抵の場合、安さに惹かれて購入するとき、買ったことを後悔しがちなのです。

 

購入を迷う理由が価格の高さならば、その商品は買う価値を持ちます。逆に買う理由が安さならば、買う価値は劣ります。それなのに売る側に回ると、価値を理解してもらう努力を怠り、いともたやすくに値引きをしてしまうのはなぜでしょうか。価格に釣られたお客様は、価格で離れていくというのに。

 

「安物買いの銭失い」という言葉があるように、買物とは真剣勝負。個人であれ、法人であれ、じつはその人がどこに満足を求めているかという価値観の表われです。私たちの務めは、商いを通じてお客様に未来につながる満足を届けることにほかなりません。

 

買物とは、勤労の対価を人生の喜びに変える至福の営みです。自分がお金を払って買うかどうかを、常に営業の一丁目一番地に据えましょう。あなたが商材の良さを心の底から確信すること、それが価値を伝える秘訣です。

 

「もっと安くならない?」

「なあ、少し勉強できない?」

 

食器・調理器具店が100店舗以上集積する「かっぱ橋」は、日常的に値切り交渉が行われる問屋街。そこに「料理道具の聖地」と呼ばれる店があります。

 

今では多くのプロや料理愛好家に愛される繁盛店「飯田屋」の店主、飯田結太さんが事業を承継して間もないころのこと。商品への愛着も知識もなかった彼は、売上不振の原因を競合他店との価格差にあると思い込んでいました。

 

「どの店よりも1円でも安く販売しよう」と彼は、同業者すべての価格をすべて調べ上げ、安さで勝ろうと品質を落としてまで最安値をつけました。高品質の日本製は原価が高いからと売場から外し、韓国製、中国製、バングラディシュ製、インド製へ……。

 

しかし、お客様は誰も振り向いてくれず、既存客さえ落ちた品質に呆れて離れていきました。増えたのは売上ではなく、クレームの声だけだったのです。

 

倒産瀬戸際に追い込まれた失意のある日、「この店で、大根がいちばんふわふわにできるおろし金はどれだい?」と料理人のお客様がやってきました。なんとか要望に応えようと、大根を買ってきて店の商品を試すも、どれも駄目。そこで宿題にしてもらって、メーカーから十数種類の商品を取り寄せ、自分で使ってみて、ようやくお客様の要望に応えられる商品を見つけました。

 

後日、お客様に試してもらうと、今までの接客で見たこともないような満面の笑みで、高価な商品を値引きも求められず買ってくれたのです。すると彼の心に、他店の価格を気にして、安く売ろうとしていたころには感じられなかった喜びが湧き上がってきました。

 

その日を境に彼は商品知識の習得に励み、繁盛の道を歩みはじめます。商いは、目の前のお客様の笑顔がすべての出発点であり、目的なのです。

 

#お悩みへのアドバイス
売って楽しかったと
思える販売なら
きっと買ったお客様も
うれしい買物である

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。

 

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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