笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

今日のお悩み◆

価格で訴求してもお客様に響きません。さらなる値下げを検討すべきでしょうか?

 

あなたが欲しいのは売上でしょうか。それとも利益でしょうか。前者ならば、値下げすれば望むものをすぐに得られるでしょう。しかし、それでは利益が残らず、その先に未来はありません。

 

そもそも利益とは、自分のためのものではありません。お客様のために事業をより良くする原資として、お客様から託されたものなのです。だから、利益の確保こそが明日につながる仕事の本質です。儲からなければ、お客様から託された役割を果たすことはできません。

 

大切なのは、どのように利益を生み出すかです。多くの企業は一時の売上欲しさに安易に値下げして、価格訴求に走りがちです。結果、多くの企業が低すぎる利益率に苦しみ、経営環境のわずかな変化で水面下に埋没して、そのまま消えていきます。

 

本当の利益とは、新たな価値を創造するところからのみ得られます。お客様の抱く不満、不便、不都合、不快といった〝不〟の解消に努めましょう。それを成し遂げたとき、お客様から「ありがとう」と言われ、そのごほうびとして与えられるものが利益なのです。あなたがするべきは値下げではなく、お客様以上にお客様の〝“不〟”を理解し、その解消に努めることです。

 

「小売の輪」という言葉をご存じでしょうか。米国の経済学者、マルコム・マクネアが提唱した理論で、安売りが小売業態を進化させるという理論です。なるほど、これまでの小売業の歴史を振り返ると、新しい業態は多くの場合、価格の安さとそれを可能にするローコストを武器に成長していきました。

 

価格戦略は経営の要であることは言うまでもありません。しかし、他社の値下げに追従だけでは自滅するだけです。

 

大手家電量販店がひしめく超激戦地で、売上至上主義から荒利本位主義へと転換を図り、高収益を実現した家電店があります。東京・町田市で1965年に創業した「ライフテクト ヤマグチ」です。

 

同社の価格は大手家電量販店より2~3割高く、粗利益率は大手家電量販店の20%後半に対して44%超。安売り競争に背を向け、ワン・トゥ・ワンの顧客サービスで高売りを貫いています。

 

「うちのお客様は値段でうちの商品を判断しません。うちの存在がなくなると困るから、よそより高くても買ってくださる。それには、お客様に日頃からとことん尽くすという前提があります」とは、同社の山口勉社長。

 

たとえば、冷蔵庫が壊れたといえば、すぐに駆けつけるのはもちろん、冷蔵庫の中身の保冷のために氷を持っていくのが同社の当たり前。家族で旅行に行くとなれば、留守の間、庭木に水をやり、ペットの餌や散歩の面倒をみるのも同じく当たり前。大掃除でたんすを動かすとなれば手伝いに行きます。

 

「困ったとき、気軽にうちに電話してきてくれるお客様とのつながりを最も大切にしています。安さで買ってくれたお客様は、他が安ければすぐに離れていく。単にお客様を増やすのではなく、信頼でつながるファンを増やすのです」と山口社長。

 

「かゆいところに手が届くサービス」とは同社のモットーの一つですが、さらにお客様がかゆくなる前に手が届くサービスで、同社は価格に踊らされない顧客を創造しています。価格と信頼、あなたはどちらでつながりたいでしょうか。それはあなたの事業哲学次第です。

 

#お悩みへのアドバイス
本当の友情が
お金では育たないように
お客様と店の絆も
安売りでは育まれない

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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