笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み
テレビCMを刷新し、今流行りの人気俳優を起用する予定です。商品の知名度向上を期待していますが、注意点はありますか?

 

茶製品・清涼飲料水メーカーの伊藤園が日本で初めて、テレビCMに生成AI(人工知能)で作成したモデルを登場させて話題になったのは昨年秋のこと。白髪の女性がスキップしながら向かってきて商品を差し出すと場面が転換、たちまち白髪が消え去り、若々しい女性に変身を遂げるというものです。

 

コピーは「未来の自分を、今からはじめる!」。日常的に飲み続けることが未来の自分の健康につながることを伝えようという内容で、未来と現在の同一人物を表現する必要性から、生成AIモデルが起用されたようです。

 

一方、スキャンダルが発覚して、起用されていたテレビCMがすべて打ち切りとなり、その商品イメージまでも落としたという例は枚挙にいとまがありません。多額の広告宣伝費を投入したのに逆効果では、生身の人間の起用をためらう企業があっても不思議でないでしょう。

 

ところで、テレビCMなど広告の本当の目的とは何でしょうか。それは「この商品を買いなさい」と、自社の都合を消費者に向かって押しつけることでは決してありません。

 

「これはあなたに最適で、あなたの生活を幸福にするものです」と、相手にとっての得を親切に、誠実に、専門家としての立場で知らせる営みなのです。それは世間への “善行”といっていいでしょう。

 

それゆえ、正しい広告とは儲けを目的とするものではありません。発信者の誠実さを伝え、その提案に共感していただくことが目的です。その誠実さに共感して商品を買う結果、売上や利益が増えたりするにすぎません。

 

つまり良い広告とは、相手を想う気持ちの在り方においてラブレターと同じものです。ただ、ラブレターと異なり、多くの人に伝える必要上、放送したり、印刷したりするだけです。

 

 

かつて、あるまちで、ある一枚のチラシがまかれたときのこと。老舗呉服屋の跡取りの商売は、太平洋戦争後に焼け野原から始まりました。空襲で灰塵に帰した店の跡地にバラックのような店を建て、営業再開を知らせるチラシに若者はこう記しました。

 

焦土に開く――。

 

日中戦争以降、暮らしは統制経済下に置かれ、商人は自由にチラシをまくこともできませんでした。それゆえ、チラシを見た多くの客が店を訪れ、中には「やっと戦争が終わったんですね」と涙を流す人もいました。
新しい時代の始まりを、一枚のチラシが告げてくれたのです。そのとき「小売業は平和産業である」という確信を抱いた若き商人こそ、岡田屋七代目、イオンを創った男、岡田卓也さんです。

 

暮らしに楽しさが添えられ、平和がもたらされ、幸福が感じられる商品を専門的な知識に基づき伝えるのが広告の使命です。愛情、真実、良識、この三つだけでつくられた広告には、他になんの装飾もいりません。

 

「昭和の石田梅岩」といわれた経営指導者、倉本長治は広告を「広告という文字を幸告という意味だと洞察できるとき、本当のその広告の効果がある」といいました。広告とは幸いを告げるものという覚悟があなたにありますか。

 

広告を単なるテクニックとして捉えてはなりません。消費者はその中に企業の姿勢を見ているのです。

 

もちろん、そうした意図に適う才能(タレント)もいるでしょう。その人に愛情、真実、良識があるかどうか。注意すべきはこの一点です。

 

#お悩みへのアドバイス

生活者に幸福な
お金の使い道を
親切に知らせる活動を
広告というのである

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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