笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

いま、多くの企業がその壁の前で足踏みをする事業承継問題。それにより倒産する企業が増加の一途をたどっています。

 

長寿企業・ファミリービジネスの研究者として著名な後藤敏夫・日本経済大学大学院特任教授の論文「ファミリー企業における長寿性」によると、第1世代から第2世代に継承された割合は30%、第2世代から第3世代への継承割合は30%となり、第1世代から第3世代まで無事に継承される割合は10%ほどにとどまるといいます。

 

千葉県野田市において会社を設立して100年超、400年ほど前まで歴史をさかのぼることができる企業、キッコーマン。しょうゆメーカーの代表格として、国内だけでなく、海外事業も積極的に展開しています。

 

創業家は、茂木家(6家)、高梨家、堀切家の計8家で構成され、優秀な後継者を確保するための仕組みとして、次のような不文律が守られています。

 

①創業8家から入社できるのは1世代1人に限る(仮に兄弟が2人いても、そのうち、1人しか入社できない)

②創業8家出身であっても役員にする保証はしない

③役員になっても社長になれる保証はない

 

このように、創業家の人材がキッコーマンに入社しても、役員などに就任できる保証はされていないため、創業8家は熱心な子育てをしています。そのよりどころになっているのが家訓です。茂木家、高梨家、堀切家の家訓を見てみましょう。

 

【茂木家】

一.徳義は本なり、財は末なり、本末を忘れてはならない。

一.家内の和合を心掛けよ。

一.奢った贅沢を慎み、質素倹約の美徳を発揮せよ。

一.家業以外の事業に手を出すな。

一.損しないことが大きな儲けだと知よ。

一.競争は進歩の主因であるが、極端な道理に反する競争は避けよ。

一.衛生を心がけ、食事は麦飯に汁一椀にせよ。ただし、使用人と同一品に限る。

一.規律を厳しく、使用人を優遇せよ。

一.私費を割いて、公共事業に支出せよ。しかし、身代不相応のことをしてはいけない。

一.各自、蓄財思想を養成し、常に不測の事態に備えよ。

一.一年に二回親族会を開くこと。その際、富の程度によって、人を上下するのではなく、貴ぶべきは人格である。

 

【高梨家】

一.親子兄弟夫婦をはじめ諸親類に親しく、下人に至るまで憐れよ。主人であるものは各家業に精を出すべき。

一.家業をもっぱらとし、怠ることなく、万事その分際に過ぎない(本業の範囲を越えない)ようにすること。

一.偽りをなし、また無理を言い続けるなど、人の害になることをしないこと。

一.博打この類は一切禁止のこと。

 

【堀切家】

一.つとめて慈善を施し、国のために尽くせ。

一.みりん醸造の業は代々我が家業として子孫に伝え、その成功を遂げることを期待せよ。

一.品質の優れたみりんを醸造し、薄利をもって売りさばけ。

一.忍耐は幸福を生み、業を栄え、家を富ませることを心にしるして忘れてはならない。

一.投機事業に手を染めてはならない。額に汗して得た者になければ、その財産を称えることはない。

一.雇用人は事業上の功労者であり、家族として優遇せよ。

一.常に勤勉・倹約の美徳を守り、怠慢・奢りの悪い習慣を避けよ。

一.御公儀様、御法度(法律やルール)を堅く守ること。

一.親類、友人に親しみ、仲良くすること。

一.貧しい者または奉公人(使用人)等に至るまで慈愛せよ。

一.火の用心を大切にせよ。

一.百姓は菜種(油)を切らすな、公事するなと言われたことを忘れるな。

 

これらに共通するのは、真摯な仕事観、和を貴ぶ家族観、質素倹約を重んじる金銭観。永続するファミリービジネスの三大要因がここにあります。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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