
三行で撃つ
「世界を変えるのは、問いだ。問いを作れる人が、ライターだ」(本書115ページ)
近藤康太郎さんの『三行で撃つ』の一節に、胸を射抜かれるような言葉がありました。朝日新聞の編集委員であり、大分県日田市で百姓と料理もやる近藤さんは、ライターの本質を「問いを作る人」と定義しています。文章を書く技術の前に、ライターは問いを立てる力を養わなければならない。問いがあるから言葉は深まり、世界は別の角度から見えるようになるのです。
私はこの一文を読みながら自然と、別の言葉に置き換えていました。世界を変えるのは、問いだ。問いを作れる人が、商人だ」と。商いもまた、問いから始まる営みではないでしょうか。
商いは「答え」を売る仕事ではない
多くの店が「何を売るか」を考える。しかし、本当に繁盛している店は「どんな問いを持っているか」が違います。なぜ、この商品を扱うのか。なぜ、この価格なのか。なぜ、この売場なのか。なぜ、このまちで商いを続けるのか。こうした問いを持たない商いは、仕入れと販売の繰り返しに終わります。一方、問いのある商いには思想を持ちます。
著者は、取材において「予想できる質問は愚問だ」と書いています。準備を重ね、相手の思考の奥に届く問いを放ってこそ良問です。その問いが、まだ言葉になっていない本音を引き出します。
これは商人にもそのまま当てはまります。「何をお探しですか?」という物に焦点を当てた問いでは、未来は開けません。「何かお困りごとですか?」「何をお望みですか?」という心に対する問いがあってこそ、商いは深化します。問いは、売上をつくる前に、関係をつくるものです。
問いが“見えない価値”を掘り当てる
本書に「鉱脈に当たった音を聞き逃すな」という趣旨の記述があります。取材相手の何気ない一言にこそ、宝が埋まっています。そこに気づけるかどうかは、問いの質で決まるのです。
商いも同じです。お客様の「ちょっと高いね」という一言。「昔はよく来ていた」というつぶやき。「ここに来ると落ち着く」という何気ない独り言。これらは単なる感想ではありません。問いを持つ商人にとっては、鉱脈となります。
なぜ高いと感じたのか。なぜ足が遠のいたのか。なぜ落ち着くのか。問いを重ねることで、価格ではなく価値の話にたどり着きます。商品ではなく体験の話になります。売場ではなく人生の話になります。正しい問いは表面を削のではなく、深く、静かに掘る道具なのです。
問いを持つ商人は環境に振り回されない
市場は変わります。物価は上がります。競合は増えるでしょう。こうした外部環境を自店の業績の理由にすることは簡単です。しかし、問いを持つ商人は違いいます。
「この状況で、私たちにできることは何か」
「このまちに、いま本当に必要なものは何か」
「十年後に残る店になるために、今日なすべきことは何か」
問いは、視点を変えます。視点が変われば、行動が変わります。行動が変われば、結果が変わります。世界を変えるのは戦略でも資本でもありません。問いなのです。
問いがあるから、工夫が生まれます。問いがあるから、覚悟が決まります。問いがあるから、商いは「作業」から一生を懸けるに値する「使命」へと変わるのです。
問いを作れる人が商人である
著者は、問いを作れる人こそがライターだと言いました。私はこう思います。問いを作れる人こそが、商人です。商品知識が豊富な人が商人なのではありません。販促が上手な人が商人なのでもないのです。
自らに問い、店に問い、社会に問い続ける人。その問いを恐れず、逃げず、磨き続ける人。その人こそが商人です。商いとは、問いを育てる仕事なのです。問いを持つ店は、簡単には消えません。なぜなら、問いは進化し続けるからです。
本書の帯にある「書くとは、考えること」という言葉は、そのまま「商うとは考えること」と言い換えられます。考えるとは、問いを立てることだからです。
売上が下がったとき、何を問うか。人が辞めたとき、何を問うか。競合が現れたとき、何を問うか。問いの質が未来の質を決めます。どんな未来を選ぶかを問いましょう。それができる商人は、時代に飲み込まれません。むしろ、時代をつくる側に回ります。
本書『三行で撃つ』は文章術の本です。しかし同時に、「生き方の本」でもあります。問いを持ちましょう。問いを磨きましょう。問いを恐れてはなりません。世界を変えるのは、問いです。問いを作れる人が、商人です。あなたの店はいま、どんな問いを持っていますか。
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