
抹茶ブームの陰で
抹茶ラテ、抹茶スイーツ、そして海外で広がる「MATCHA」という言葉。いま、日本茶は世界的な人気を集めています。観光地では抹茶専門店に長い列ができ、外国人旅行者が茶筅で点てた抹茶を楽しむ光景も珍しくありません。
ところが、その華やかなニュースの裏側で静かな変化が起きています。帝国データバンクの調査によると、2025年、製茶業の休廃業・解散は13件と過去最多を記録しました。抹茶人気の時代に茶の会社が市場から姿を消しているのです。一見すると矛盾しているように見えるこの現象は、じつは日本茶産業の構造的な転換を映し出しています。

ブームは必ずしも業界を救わない
抹茶の需要は世界的に急増しています。その影響で、茶農家の生産は抹茶の原料となる碾茶へと移りつつあります。結果として、煎茶の原料となる茶葉は減少し、価格は上昇しました。
同時に、従来の日本茶の主要な販路も変化しています。かつて安定していた贈答用の需要は、家族葬の増加など社会の変化の中で縮小しています。まちなかの茶店も減りました。原料も変わり、売り場も変わっています。つまり、日本茶を取り巻く商いの土台そのものが動いているのです。
ここで考えたいことがあります。それは「需要があるのに苦しくなる」という現象です。商いの世界では、こうしたことがしばしば起こります。ブームは市場を拡大させますが、同時に競争の形を変えます。商品が売れることと企業が繁栄することは、必ずしも同じではありません。だからこそ、商人にとって大切なのは流行そのものではなく、流行の奥にある価値を見つめることです。
日本茶は「飲み物」ではない
日本茶の価値は、単なる飲料ではありません。急須から立ち上る湯気。和菓子とともに味わう一服。季節の移ろいを感じながら、静かに茶をすする時間。そこには、日本人が長く大切にしてきた文化があります。
コーヒーやワインの世界が示しているように、飲み物は単なる商品ではありません。そこに物語や文化が宿ったとき、初めて人は価値を感じます。抹茶が海外で人気を得た理由も、まさにそこにあります。抹茶は味だけでなく、日本の美意識や精神文化とともに受け入れられました。つまり、日本茶の本当の価値は「お茶そのもの」ではなく、「お茶のある時間」にあります。

商人は文化を売る人である
もし日本茶を単なる飲料として売るなら、市場は縮小していくかもしれません。急須を使う家庭が減り、生活様式が変われば、需要は当然変わるからです。
しかし、日本茶を文化として届けるなら未来は変わります。ゆっくりと茶を淹れる時間。心を整える一服。季節を感じるひととき。それは、忙しい現代だからこそ求められる価値です。
商人とは、商品を売る人ではありません。文化を未来へ手渡す人です。その視点に立てば、日本茶の未来は決して暗いものではありません。むしろ、まだ語られていない魅力が数多く残されています。
日本茶の未来は売り方で決まる
製茶業の休廃業が増えているという事実は、確かに重い現実です。しかし、それは同時に問いでもあります。これから日本茶をどう届けるのか、どんな価値として語るのかを私たちに問いかけています。
商品は変わらなくても、意味は変えられます。抹茶が世界で評価されたのは、単なる飲み物ではなく、日本文化の象徴として伝えられたからです。同じように、日本茶もまた新しい物語をまとったとき、違った姿で人々の前に現れるでしょう。
商いとは、商品に意味を与える仕事です。その意味を見つけることができたとき、どんな業界にも未来が開けます。抹茶ブームの陰で、日本茶の世界はいま大きな転換点に立っています。
けれども、問いはとてもシンプルです。私たちは、何を売っているのか。そして、どんな時間をお客様に届けたいのか。その答えを持つ店だけが、これからの時代に選ばれていくのです。
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