
クレームを「宝の地図」にする
クレームは、現場の空気を一瞬で変えます。胸がざわつき、言葉が乱れ、対応が終わっても疲れが残る。——その一方で、クレームほど「店を強くする材料」もありません。怒りの奥には、店がまだ渡し切れていない価値が眠っているからです。そのことについては前回「怒りの奥に眠る需要」で書きました。
ただし、クレームを宝に変えるには条件があります。それは、その場で終わらせないこと。謝って解決しても、記録が残らなければ、次の繁盛にはつながりません。むしろ、また同じようなクレームが起きるでしょう。
そこで提案したいのが、クレーム1件につき1枚の「宝の地図」をつくることです。長文はいりません。反省会もいりません。“次の行動”が生まれる形で残す。それだけで店は確実に進化します。
クレーム対応がうまくいかない原因の多くは、能力不足ではありません。忙しさの中で記録が散らばるところにあります。担当者によって解釈が変わること。改善が“決まらない”こと。つまり、仕組みの不在です。1枚にまとめると、次の利点が生まれます。
・誰が見ても同じ理解に揃う
・“原因探し”ではなく“行動”が決まる
・クレームが蓄積され、店の弱点が見えてくる
・スタッフが折れにくくなる(次に活かせる実感が残る)
このように1枚シートは、クレームを「痛い出来事」から「学びの資産」に変える最短ルートです。ここから先は、明日からそのまま使える“書式”を紹介します。クレームが起きたら、この順に埋めてください。所要時間は当日2〜3分、翌朝2分。十分回る手軽さです。
①基本情報(30秒)
まずは、あとで思い出せる最低限を押さえます。細部は不要です。
・発生日
・担当者
・商品/サービス
・発生場所(売場/レジ/電話/納品/アフター)
・お客さまタイプ(新規/常連/法人/不明)
・影響度(小:不満表明/中:返品・返金/大:SNS投稿・再発リスク高)
②「きっかけ」を一文で固定する
ここが最重要です。感想や言い訳は書かず、事実のみを短く“映像になる一文”にします。「地図の起点」といっていいでしょう。たとえば次のような一文です。
「レジで処理が滞り、待たせた」
「サイズ違いを渡した」
「表示価格と会計金額が違った」
「説明不足で使い方がわからなかった」
「予約時間に商品が用意されていなかった」
この一文が曖昧だと、改善も曖昧になります。逆にここが固まると、話が前に進みます。
③怒りの奥の「需要」を特定する
クレームの表面は怒りでも、芯にはたいてい「不安」「手間」「尊重」の三つがあります。最も強いものにマルをつけ、具体的に一言添えます。
□不安(失敗したくない/損したくない/ちゃんとしたい)
→どこが不安だった?(品質・金額・手続き・正しさ・健康……)
□手間(時間がかかる/分かりにくい/二度手間)
→どの摩擦が大きい?(探す・並ぶ・聞く・連絡する・持ち帰る……)
□尊重(大切に扱われたい/見下されたくない/向き合ってほしい)
→何が刺さった?(言い方・表情・放置・たらい回し……)
需要がつかめると、店が変えるべき点が“接客”なのか、“表示”なのか、“手順”なのかが見えてきます。
④原因は「三段掘り」で止める
掘りすぎると疲れて終わります。現場で回すなら次の“三段”で十分です。具体例を添えて書きましょう。結論のない反省会にしてはなりません。
・直接原因(その場で起きたミス)→伝票の確認漏れ
・背景原因(仕組み・ルール・教育・表示)→ダブルチェック手順がない
・誘因(混雑・新人・役割不明・情報散在)→繁忙で応援が入り、役割が曖昧
⑤店が変える「一点」を決める
ここは必ず一つだけを決めます。複数にすると実行されません。いちばん手軽に再発を減らせる一点、つまり“進化の核”を選びます。たとえば次のような決めごとです。
・案内を変える(表示・POP・FAQ・順序)
→価格条件をレジ前に“一行”で掲示する
・手順を変える(チェック・引き継ぎ・確認タイミング)
→会計前にサイズ・数量・価格を指差し確認する
・言葉を変える(声かけ・謝罪・説明テンプレ)
→最初の一言を統一し、感情を先に受け止める
・道具を変える(チェックリスト・掲示・タグ・トレー)
→返品対応の3ステップカードを置く
⑥“やること”を5W1Hで書き切る
地図は、行けなければ意味がありません。そこで、行動に落とすための5W1Hを紹介します
・いつ(明日/今週中/○日まで)→明日朝
・誰が(担当を一人に固定)→店長
・どこで(入口/売場/レジ/バックヤード)→レジ
・何を(やることを一文)→指差し確認を導入
・どうやって(手順を2〜3行)→会計前に「数量・サイズ・価格」を口に出して確認
・確認方法(どうなったら“できた”か)→1週間、確認漏れゼロを記録
⑦信頼回復の「返す言葉」を一行で決める
店員によって言葉が違うとクレームの火種になります。最初の一文を固定し、次の一文も需要に応じてブレをなくします。
最初の一文(共通)「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
不安に対して「ご心配になりますよね。状況を確認し、安心できる形にします」
手間に対して「お手間を取らせてしまいました。こちらで手順を簡単にします」
尊重に対して「ご不快だった点を受け止めます。同じことが起きないよう整えます」
⑧1週間後の点検
改善は“決める”ことより“続ける”ことが難しいものです。だから点検欄をつけ、やりっぱなしを防止します。
・1週間後:再発した/していない
・効果:現場がラクになった/お客さまの反応が改善/変化なし
・次の一手:継続/微調整/別の一点に切り替え
クレームが多い店は伸びしろが多い
クレームは、店の欠点を突きつけるものに見えます。しかし見方を変えれば、「お客さまが求めている価値」を教えてくれる地図です。地図が増えれば、店は迷わなくなる。迷わなくなれば、対応は早くなる。対応が早くなれば、信頼が戻る。信頼が戻れば、常連が増える。
クレームを“その場の痛み”で終わらせてはなりません。1枚の地図にして、店の進化に変えていきましょう。それが生活防衛の時代にも揺らがない強い商いのつくり方です。
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