
十訓 正しく生きる商人に誇りを持て
正しく生きる商人に誇りを持て――商売十訓の最後を締めくくる第十訓は、これまでのすべてを統合する一文です。第一訓から第九訓までで示されてきた判断、学び、顧客、利益、責任、協働、社会、倫理、合理化。そのすべてはこの一文に集約されまます。
商いとは単なる仕事ではないというのが倉本の思想の根本にあります。それは職業である前に、「どう生きるか」という問いそのものであると倉本は伝えています。
ここでいう「正しく生きる」とは、特別な理想を掲げることではありません。日々の判断において善悪を問い、顧客に向き合い、誠実であり続けること。その積み重ねこそが「正しさ」です。そして、その正しさに対して胸を張れるかどうか。それが「誇り」です。
何によって憶えられたいか
では、もしピーター・ドラッカーがこの一訓を読んだなら、どう解釈するでしょうか。おそらく彼は「何によって憶えられたいか」と言うはずです。これはドラッカーが晩年に繰り返し問いかけた言葉です。人はどのような存在として記憶されたいのか。この問いに向き合うことが、自らの行動を決定づけると彼は考えました。
この問いは、商人にとっても同じです。自分の店は、どのような店として記憶されたいのか。価格の安い店か、便利な店か、それとも信頼される店か。この問いに対する答えが日々の商いのあり方を決めていきます。
そして「誇り」は、成功したから生まれるものではありません。どのような選択を積み重ねてきたかによって生まれます。短期的な利益を優先するのか、正しさを優先するのか。効率を取るのか、価値を取るのか。その一つひとつの選択が商人としての姿を形づくります。
現場では迷う場面が数多くあります。そのときに何を基準にするのか。目先の損得ではなく、自分の信じる正しさに基づいて判断できるかどうか。この積み重ねがやがて揺るぎない誇りとなります。
倉本が伝えたかったのは、外から与えられる評価ではなく、自らの内側にある確信です。それがあるとき、商いは単なる仕事を超えた意味を持ち始めます。
現場に落とす「誇りある商い」
では、この第十訓をどのように実践すればよいのでしょうか。特別な行動は必要ありません。これまでの九つの訓を、日々の商いの中で実践することです。たとえば次のような実践です。
・正しいと思う商品だけを扱う
・顧客に対して誠実であり続ける
・社会にとって意味のある商いを選ぶ
こうした行動は、一見すると地味で時間もかかります。しかし、その積み重ねこそが、店の価値を形づくります。さらに重要なのは、自分の商いに対して言葉を持つことです。なぜこの仕事をしているのか。誰の役に立ちたいのか。この問いに答えられるとき、商いは確かな軸を持ちます。
誇りが店を強くする
これからの時代、商品や価格、立地だけでの競争はますます厳しくなります。その中で最後に問われるのは「どんな人が営んでいる店か」です。誇りを持って商いをしている店は、その姿勢が自然と伝わります。言葉にしなくても、この店は信頼できるかどうかをお客様は感じ取ります。その信頼こそが長く選ばれる理由になります。
誇りは目に見えません。しかし、それは店の空気となり、関係となり、文化となって現れます。そして、その積み重ねが他にはない価値を生み出します。
倉本長治は「正しく生きる商人に誇りを持て」と言いました。それは、商いを人生そのものとして捉える言葉です。そしてドラッカーは「何によって憶えられたいか」と問いかけました。この二つは同じ本質を示しています。
商いとは、どのように生きるかの選択です。その選択の積み重ねが、店の未来をつくります。あなたは、どのような商人として憶えられたいですか。その問いに正面から向き合うことがすべての始まりです。
正しさに裏打ちされた誇りだけが長く続く商いを支えます。その原点がこの第十訓にこめられているのです。
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