笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

昼のやすらぎを守る商い

昼どきの街を歩くと、弁当を手にした人々とすれ違います。会社員、建設現場で働く人、学生。その小さな箱の中に入っているのは、ご飯とおかずだけではありません。午後を支える力が詰まっています。

 

忙しい日常のなかで、短い昼休みに食事をとる。その当たり前の時間を支えてきたのが弁当店です。しかし今、その弁当店を取り巻く環境は急速に厳しさを増しています。

 

帝国データバンクの調査によれば、弁当店の倒産は2025年に55件となり、前年を上回って2年連続で過去最多を更新しました。また、2025年度の業績動向では、赤字企業が41.9%に達し、赤字と減益を合わせた「業績悪化企業」は64.8%に上っています。

 

つまり、弁当店の3社に2社は利益が厳しい状況に置かれているのです。弁当店は今、静かな転換点に立っています。

 

 

「安い弁当」の時代の終わり

 

弁当店の経営を苦しくしている最大の要因は、コスト上昇です。米、鶏肉、油、小麦粉。さらに容器、包装資材、光熱費。とりわけ近年はコメ価格の高騰が大きな打撃となっています。弁当の主役はご飯です。その米が上がれば、弁当店の原価は一気に上がります。

 

しかし、値上げすれば客離れが起きます。なぜなら競争相手は、同業の弁当店だけではないからです。コンビニ、スーパー、ドラッグストア。さらにデリバリーや冷凍食品。今や昼食市場はあらゆる業態が競う市場です。

 

スーパーではワンコイン弁当が並び、コンビニは品質を高めています。その結果、多くの弁当店が「値上げすれば売れない」「値上げしなければ利益が出ない」という板挟みに直面しています。帝国データバンクは、この状況を「安い弁当ビジネスの限界」と分析しています。

 

つまり弁当店が生き残る道は一つです。安さ以外の価値をつくることです。

 

弁当店にしかできない価値

 

弁当店の最大の強みは、人の温度を持った食事を届けられることです。コンビニ弁当は便利です。しかしそこには、作り手の顔は見えません。

 

街の弁当店には人がいます。「今日は暑いですね」「ご飯多めにしておきました」といった言葉が交わされるだけで、弁当はただの商品ではなくなります。それは、人の暮らしを支える食事になります。

 

たとえば横浜の老舗、崎陽軒の「シウマイ弁当」です。1954年の発売以来、長く愛され続けています。その理由は単にPRの巧みさではありません。冷めてもおいしいご飯。味がしみたおかず。変わらない味。旅の途中でも、日常の昼食でも「安心して食べられる弁当」であり続けてきました。

 

弁当は料理ですが、同時に記憶でもあります。「この弁当を食べると、ほっとする」と思ってもらえる店は、簡単にはなくなりません。

 

 

生き残る弁当店の方向

 

帝国データバンクの分析でも、弁当市場は今、いま二極化が進んでいます。一つは、セントラルキッチンを活用して低価格を維持する大手。もう一つは、品質や価値を高めて支持される店です。

 

まちの弁当店が進むべき道は、後者でしょう。ヒントは、決して難しいものではありません。

 

ご飯がおいしい店――コメにこだわる弁当はそれだけで価値があります。
栄養が整った弁当――野菜がきちんと入っている弁当は働く人に喜ばれます。
地域を支える弁当――近くの会社、工事現場、高齢者宅といった地域の暮らしを支える店は必ず必要とされます。

 

弁当店の仕事は、単に弁当を売ることではありません。人の一日を支えることです。

 

 

弁当店が問い直すべきこと

 

弁当店の未来を決めるのは売上ではなく、問いです。

 

「いくらで売るか」ではなく、「誰の一日を支えるのか」。
「何種類つくるか」ではなく、「何を大切にした弁当か」。

 

弁当は小さな箱です。けれど、その箱の中には店の哲学が入ります。丁寧に炊いたご飯。食べる人を思ってつくったおかず。疲れている日に食べたくなる味。そうした弁当をつくる店は、広告をしなくても支持されます。

 

なぜなら、弁当は毎日食べるものだからです。毎日食べるものは、やがて信頼になります。もし弁当店が、一人ひとりの午後を支える覚悟で一食をつくり続けるなら――その店は、価格ではなく信頼で選ばれる店になります。

 

そして信頼で選ばれる店は、景気が変わっても、競争が激しくなっても、静かに生き残り続けます。弁当は小さな商いです。けれど、人の暮らしを守る商いです。だからこそ、今日も一つの弁当を丁寧につくる。その積み重ねこそが、これからの弁当店の未来をつくっていくのです。

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