
売れない理由はどこにあるのか?
売れないから値下げする――前回のブログ「その値引き、本当に必要ですか?」で触れたこの判断は、現場において極めて自然なものです。しかし、本当に見つめるべきは「価格」ではなく、売れない理由の正体です。
売れない商品には必ず理由があります。そしてその多くは価格以外のところに潜んでいます。ここでは、現場で繰り返し見られる四つの要因を具体的に考えてみます。
用途が見えなければ商品は選ばれない
商品は商品そのものではなく「何に使うか」で選ばれます。けれど売場では、その“使いどころ”が十分に伝わっていないことが少なくありません。
たとえば、少し上質な調味料や食品。品質には自信があることでしょう。しかし、それだけではお客様は動きません。「どんな料理に合うのか」「どのタイミングで使うのか」「どんな変化が生まれるのか」といった用途や効能が具体的に見えなければ、「試してみよう」という気持ちは生まれないのです。
ある食品店ではオリーブオイルの横に「パンにそのまま 朝の一口が変わります」と書き添えました。この一文で商品は“調理用の油”から“朝の楽しみ”へと意味が変わりました。用途が具体化された瞬間、商品は初めて選択肢に入るのです。
選び方が分からなければ購入は先送りされる
売場に商品が揃うほど、お客様は迷います。そして迷いは購買を止める最大の要因です。似たような商品が並び、違いがわかりにくいとき、お客様は「どれを選べばいいか分からない」と考えます。その結果、「また今度にしよう」と判断が先送りされます。これは“売れない”のではなく、“決められない”状態です。
ある専門店では、商品に「初めての方はこちら」「しっかり味わいたい方はこちら」「軽く楽しみたい方はこちら」と“選び方の軸”を添えました。このように、お客様の状況に応じた選択肢を示したことで迷いが減り、購入が進むようになりました。
選び方を提示することは、お客様の意思決定を支える行為です。ここに、店の価値があります。
違いが伝わらなければ“どれでも同じ”になる
差別化は存在しているだけでは意味がありません。伝わって初めて価値になります。たとえば、同じ価格帯の商品が並ぶ売場があるとします。素材や製法に違いがあっても、それが言葉になっていなければ、お客様には「どれも同じ」に見えます。
ある衣料品店では商品の特徴を「機能」ではなく、“使ったときの違い”で表現しました。「長時間着ても疲れにくい」「洗濯しても型崩れしにくい」「仕事でも休日でも使える」というように、生活に引き寄せた言葉に変えたことで、お客様は「自分に合うかどうか」で選べるようになりました。
違いとは比較のための情報ではありません。選ぶ理由そのものなのです。
買うタイミングが見えなければ後回しになる
どれほど魅力的な商品でも、「いつ使うか」が見えなければ、購入の優先順位は上がりません。「良さそうだけど、今じゃなくてもいい」という状態にとどまれば、購買は先送りされます。
ある和菓子店では、今週末のお茶の時間に」「来客の際にちょうどいい一品です」というように、季節や時間に結びつけた提案を行っています。すると、お客様の中に具体的な場面が浮かび、「そのときに使おう」という意思決定が生まれます。
また、惣菜店では「明日のお昼にもおいしく召し上がれます」という一言が効果を発揮しました。“今日”だけでなく“明日”まで含めた提案です。これにより購買のタイミングが広がりました。
タイミングはお客様が考えるものではありません。店が提示するものです。
値引きの前に見直すべき四つの視点
明日、売れない商品に出会ったとき、価格を変える前に四つの視点で見直してみてください。
・用途は見えているか
・選び方は示されているか
・違いは伝わっているか
・タイミングは想像できるか
すべてを一度に変える必要はありません。まずは一つ、言葉を添えるだけでもいいのです。その一手が「売れない理由」を取り除きます。
売れないのは、価値がないからではありません。価値が伝わっていないだけかもしれない。だからこそ値引きの前に問い直すべきです。その商品は、正しく語られているだろうか、と。
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