笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

量よりも配分

こんなに頑張っているのに、思うように成果が出ない──そんな悩みを抱えたとき、人はつい“努力の量”を増やそうとします。しかし、商いにおいて本当に大切なのは、努力の「量」よりも「配分」です。どこに時間とお金、そして人の心を注ぐか。そこを誤ると、頑張りが報われない構造が生まれてしまいます。

 

この“配分の見直し”を考えるとき、経営の世界でよく使われるのが「PPM分析」という考え方です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これはどんな規模の店にも応用できる“選択と集中”の原理です。大切なのは、数字ではなく、その背後にある「時間の流れ」と「店の未来」を読み解く視点です。

 

成長の地図を描く考え方

 

PPMとは「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Product Portfolio Management)」の略で、1970年代にアメリカのボストン・コンサルティング・グループが提唱した手法です。企業が複数の事業や商品を持つとき、それぞれの「市場の成長率」と「自社の占有率(シェア)」という二つの視点で整理し、資源をどこに投下すべきかを判断するという考え方です。この理論では、事業をおおよそ四つのタイプに分けて考えます。

 

1.急速に伸びる市場で高いシェアを持つ「スター(花形)」
2.成長は落ち着いたが確かなシェアと利益を持つ「金のなる木」

3.成長市場にいながらまだシェアを持てていない「問題児」
4.成長もシェアも低くなってしまった「負け犬」

 

もちろん店の現場では、そんなにきれいに四分割できるわけではありません。しかし「伸びるもの」「安定しているもの」「これから育てたいもの」「そろそろ見直すもの」という整理を意識するだけで、経営の見え方はまるで変わります。

 

商店経営に生かすPPMの視点

 

たとえば、愛知県のある地方都市の雑貨店の話です。この店は長年、文房具を中心に展開していました。かつては近隣の学校や企業に支えられ、安定した売上を誇っていましたが、時代の変化とともに来店客が減り、特に若年層の姿が目に見えて減っていました。

 

店主はある日、自分の売場を「どの商品が未来につながるか」という観点から見直してみました。人気のギフト雑貨は、SNSで紹介されるたびに売れ行きが伸びており、これを「スター」と見なしました。

 

一方、定番のボールペンやノートは安定して売れており、これは「金のなる木」。最近始めた輸入雑貨はまだ認知が低く、どこまで伸びるかわからない「問題児」。そして、昔ながらの紙製品は動きが鈍く、在庫がかさむ「負け犬」に近い状態でした。

 

この整理をもとに、店主は思い切って売場の配分を変えました。文房具の棚を少し縮小し、その分をギフト雑貨の展示にあて、店頭を明るく演出。さらに、SNSで「贈り物特集」を発信し、来店者が写真を投稿したくなる仕掛けを作りました。結果として、若年層の来店が増え、店全体の売上も前年を上回りました。

 

成功の理由は商品を変えたことではなく、「資源の流れ」を変えたことにあります。限られたスペース、仕入資金、スタッフの時間を、“いま勢いのある分野”へと再配分したのです。PPM分析の真価は、まさにこの「努力の方向修正」にあります。

 

感情を整理し、数字で現実を見る

 

商売は人と人との関係で成り立っています。だからこそ「昔からのお得意様がいるからやめられない」「仕入先とのつながりを大事にしたい」という思いが判断を鈍らせることもあります。その思いは尊いものですが、同時に冷静な見極めも必要です。

 

PPMの考え方を使うと、「感情に流されず、現実を見る」ための整理ができます。売上の伸びや粗利率をもとに、それぞれの商品やサービスの“勢い”を数字で可視化してみる。そうすることで、「これは未来の柱になりそうだ」「これは今の利益を支える安定資源」「これはそろそろ役割を終えつつある」といった判断が自然に浮かび上がってきます。

 

人間の感情だけで決めると、どうしても「全部がんばろう」「全部残そう」となりがちです。けれど、限られた資源を分散してしまえば、結局どれも中途半端になってしまう。だからこそ、「捨てる勇気」もまた経営の力なのです。

 

PPMが教える“時間軸の経営”

 

PPM分析が優れているのは、単なる現状分析ではなく、「時間の流れ」を読み解くことにあります。商いの世界では、どんな商品も“旬”があります。最初は注目を集めて急成長しても、やがて成長が止まり、成熟し、そして衰退していく。この流れを見誤らずに、次の柱を育てておくことが、持続的な繁盛の条件です。

 

たとえば、いま店を支えている定番商品は、かつての「スター」だったものが成熟した姿です。その収益があるうちに、次のスターを育てるための投資を始める。逆に、これから伸びる商品があるなら、それがスターになるまで資源を注ぐ。この“循環”を意識して経営を組み立てていくことが、PPMの本質的な使い方なのです。

 

「続ける勇気」と「やめる勇気」

 

商いとは、毎日の選択の積み重ねです。仕入れるか、やめるか。広げるか、絞るか。守るか、挑むか。その一つひとつの判断が、未来の姿をつくっていきます。

 

PPM分析は、冷たく数字で切り捨てるための理論ではありません。むしろ、情熱を正しい方向へ導くための“理性の羅針盤”です。がむしゃらに頑張るのではなく、伸びるところに力を注ぐ。それが、努力を報われるものに変える第一歩です。

 

「努力の量」ではなく、「努力の配分」を変える。この視点こそ、限られた資源で戦う小さな商人にとって、最大の武器になるのです。

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