一人の商人、一つの道
初めて取材でお会いしたとき、私はすぐにそのお人柄に魅了されました。商品を売るという行為のすべてを、自らの手で担い、しかもそれを25年以上にわたって愚直に続けてこられた人──その名は、岸本英司さん。京都で無地Tシャツのネット通販を手がける「京都イージー」を立ち上げ、日本のEC黎明期を一人で切り拓いた、まぎれもない“商人”でありました。
その岸本さんが、2025年7月16日をもって「京都イージー」の閉店・閉業を決断されたことを知りました。体調不良と向き合いながらも、お客様のため、商いの誇りのため、最後まで店を守り続けてこられたその姿に、深い敬意と感謝の思いを禁じ得ません。
岸本さんが「京都イージー」を創業されたのは1997年。まだインターネットで物を買うという行為が一般的ではなかった時代に、オンラインだけで商売を始められました。
奇をてらうことなく、扱うのは無地のTシャツ。商品の選定、仕入れ、ページ作成、受注、発送、顧客対応まで──すべてをお一人で担いながら、年商1億円を超えるビジネスを築かれたその姿は、まさに“ネット通販草分け”の名にふさわしいものでした。
そしてなにより岸本さんは、「ネットの向こうにいるお客さまの顔」を常に思い浮かべながら、心を込めた商いを続けてこられました。「ボタン一つで買える時代だからこそ、人のぬくもりが大切なんです」という言葉は、今も忘れられません。
岸本さんは、同志社大学大学院での講義や、高知E商人養成塾の塾長としても活動され、数々の著書を通じて、多くの後進を導いてこられました。しかし、ご本人は決して「教える人」ではなく、「共に学ぶ人」であり続けました。
「うまくいっている人が教えるんじゃない。迷いながらでも前に進む人こそが、共に学び合える存在なんです」という言葉に込められた矜持と優しさに、多くの人が救われ、励まされてきたことでしょう。
岸本さんの商いに触れるたび、私は「商人とは何か」という問いに、静かに答えを示されているように感じてきました。どんな時代であっても、真摯に商品とお客様に向き合い、自らの手で道を切り拓いていく──そこには、仕組みではなく“人”がつくる商いの真髄がありました。
岸本さん、本当にありがとうございました「京都イージー」は閉店を迎えましたが、岸本さんがこの国のネット商人に残した功績と精神は、これからも生き続けていきます。一人の商人として、一つの道を貫いたその姿は、多くの人に勇気と学びを与えてくれました。
岸本さん、これまで本当にありがとうございました。どうかご自身の体を一番に、ゆっくりと休まれてください。そして、またいつか、あの優しい笑顔にお会いできる日を心より願っております。
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