◆今日のお悩み
歴史的な円安で海外からのモノの買い付けに苦戦しています。商品の値上げはやむを得ません。顧客にどう納得してもらうべきですか?
会社で働く人が受け取る名目賃金から、物価変動による影響を除外した賃金の動きを見る指標「実質賃金」。厚生労働省は前年同月比の増減率を毎月公表していますが、7月発表段階で26カ月連続マイナスとなる過去最長を記録し、インフレ率に賃金の伸びが届かない状況が続いています。
背景には、原材料価格や物流費の高騰を受け、食品やサービス、電気・ガスなど幅広い分野で止まらない値上げがあります。メディアが相次ぐ「値上げラッシュ」をひっきりなしに伝えているのはご存じのとおりです。
こうした報道の多くは売価を改訂したケースだが、じつは値上げにはもう一種類あります。価格は変えずに内容量を減らすシュリンクフレーションであり、「実質値上げ」「ステルス値上げ」と呼ばれています。
ある飲料メーカーの例です。同社は定番商品の容器を変更すると同時に、内容量を1000mlから900mlに減量。新容器によっておいしさと利便性が向上したとうたいました。
従来品に比べ横幅が約5mm小さくなるから「手が小さいお子さまや握力が弱い高齢者でも持ちやすい」、従来品に比べ筋肉への負担が1割軽減されるので「(従来品より)楽に注ぐことができる」とは同社のプレスリリースの弁。こじつけに感じられるのは私だけではないでしょう。
しかし、これはまだ良心的なほうで、多くは何の説明もなく減量します。そこには消費者に気づかれないようにしたいという企業の魂胆が見え隠れしています。
企業が値上げをするのは利益を確保するためであり、それは否定されるべきものではありません。しかし、得た利益をどう使うのかに、その企業の本質があらわれます。
かつて静岡県熱海市に、天秤棒一本の行商から身を興し、大火で店が全焼しても問屋への支払いを守った一組の夫婦商人がいました。当時、旅館相手の掛け売りとリベートが横行していた熱海は「日本一物価が高い」と言われ、現金で買う生活者は苦しんでいました。
後に「ヤオハン」と名乗った「八百半商店」の和田良平、カツ夫妻は熱海のお客様のためにと、他者に先駆けて現金正札販売を断行。これは、すべての顧客に同じ価格で販売し、現金取引のみとすることで利益を顧客に還元するという当時の商慣習を超えた販売方法です。
これまでの慣習を変えるには困難を伴うものです。しかし夫妻は「正しいことをやるのだから恐れることはない」と、貯えを切り崩しながら続けること1年あまり。粗利益をほんの1%上げれば黒字というところまできたとき、カツは夫に1%の値上げを提言します。
すると良平は「ならばまだ頑張れる」と、さらに1%の値下げを決断したのです。「長い間商売をやってきて、今、商人として生まれて初めてお客様からありがとうと感謝「されました」とカツは当時を振り返る。ここに本物の商人がいました。
値上げを恐れることはありません。ただし、そこにはお客様への愛情、真実に裏打ちされた企業努力が欠かせないのです。
#お悩みへのアドバイス
常にお客様の利益を守り
かつ己の利益も外さない
正しい利益を生み出す
不退転の売価を付けよう
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、オンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。