◆今日のお悩み
他部署への異動が決まりましたが、仕事を引き継ぐ後輩が不安そうです。残された期間でどのようなアドバイスをすべきでしょうか。
生前に売れた絵はたった一枚という画家がいました。後にポスト印象派を代表する画家と評価を受けた19世紀後半の画家、フィンセント・ファン・ゴッホです。
約10年という短い創作期間に、油画、水彩画、素描、版画などを2000点以上の作品を遺したと言われます。しかし、生前に売れたのは「赤いブドウ畑」のみで、400フラン(現在価格に換算して十数万円程度)に過ぎませんでした。
ゴッホは筆まめでもあり、弟テオや家族・友人らと交わした多くの手紙が残っています。特に画商として経済的にも精神的にもゴッホを生涯にわたって支え続けたテオに対して、ゴッホは心の内面を書き遺しています。
たとえば「偉業は一時的な衝動でなされるものではなく、小さなことの積み重ねによって成し遂げられる」という一文があります。彼の圧倒的な画量を思うと、「積み重ね」という言葉の重みを感じずにはいられません。
またゴッホはこうも遺しています。
「私はいつも、まだ自分ができないことをする。そのやり方を学ぶために」
たしかにゴッホほど画風が変わった画家もいません。ミレーに傾倒して農村の風俗を描いた初期に始まって、印象派と浮世絵の影響を受けたパリ時代、対比する補色を多用したアルル時代、そして短い棒線と渦の筆使いが際立つサン=レミ時代と、ゴッホは貪欲に学び続けたのです。
彼の死から100年後の1990年、その死の1カ月あまり前に書かれたと言われる「医師ガシェの肖像」が、当時のオークション史上最高額となる8250万ドル(当時のレートで約124億5000万円)で落札されました。いまや、ゴッホの作品は多くの人を魅了してやみません。
積み重ね、学び続ける――ゴッホの絵はそんなことを教えてくれます。
もちろん、あなたはテオのように後輩を支え続けられるはずもありません。残された時間で何をすればいいのでしょうか。それは「働く」ことの意味を伝えることです。
書店のビジネス書の棚には、仕事の技術向上に関する書籍がたくさん並んでいます。それだけ多くの人が課題を抱えているのでしょう。しかし、それほど思い悩む必要はありません。仕事とは本来、それほど難しいものではないからです。
なぜなら、私たちは家庭や職場で毎日を精いっぱい生きる生活者であり、職業人であるからです。自分自身が相手の立場に立ったときに、こうしてほしいと思うことを相手に対して素直にやればいいのです。
「働く」の語源の一つに、傍(はた)を楽にするというものがあります。相手の心に自分の心を合わせたとき、働くことは喜びの営みとなります。
もしかすると、あなたは「仕事はそんなに甘くない」とおっしゃるかもしれません。しかし、それは働くことの本当の意味を理解していないからです。傍を楽にしたいと心から願っていないからです。
こうした観点に立った上で、ゴッホがそうしたように積み重ね、学び続ける。こうした姿勢を伝えてはいかがでしょうか。
もちろん、そうするかぎり、あなたもそれを実践しなければなりません。そうすれば、関わる人から「ありがとう」と言ってもらえる仕事がたくさんできるはずです。
#お悩みへのアドバイス
小さな一歩でもいい
その一歩の積み重ねが
あなたの仕事を磨き
あなたの人生を変える
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。