終戦後に食料品店を興した父母の後を、大学卒業後に継いだばかりのあるとき、その人は青果市場で父にこう言われました。
「いいか、良いものは仕入れるなよ」
意味がわからず、問い直すと父は言いました。
「良いものは高い。それが世の道理だ。高いものを仕入れても、お客さんは買っちゃくれない。結局、粗利を下げて売らなくちゃいけなくなる。そうなったら、儲からないだろ?」
なるほどと思いながらも、彼は父の言葉に言いようのない違和感を覚えたといいます。そんな商売をこれからずっと続けていくのか、と思ったのです。
彼とは、群馬・高崎市のスーパーマーケット「まるおか」の店主、丸岡守さん。この店を予備知識なく訪れた場合、お客様の多くは次のような疑問を持ちます。
「なぜ、テレビコマーシャルで宣伝している有名なナショナルブランドがないのか?」
「なぜ、牛乳が720ミリリットルで1778円、バターが2580円もするのか?」
また、同業者や業界通はこんな疑問を抱きます。
「なぜ、この小さな店に毎年30件以上の視察依頼が引きも切らないのか?」
「なぜ、この店の1人あたりの平均購入金額は業界平均の2倍近くもあるのか?」
その理由を探っていくと、同社のphilosophy(哲学・理念)にたどり着きます。おいしさと健康でみんなを幸せに――これがまるおかの経営理念です。
なぜ、丸岡さんは父の商売を継ぎながら、それとはまったく異なる商いを実現しているのでしょうか? その詳細は新著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』に譲りますが、丸岡さんは品揃えの理由をこう語っています。
「“教える”と言ってはおこがましいのですが、お客様に本当に良いものを伝えることが商人の使命です。そんな良いものを、情熱を込めてつくる生産者の想いと価値をお客様に伝えること、それが商人の喜びです」
「とりわけ食においては、売れるものが良いものではありません。コマーシャルに洗脳されたお客様が望む品を売るのではなく、お客様のためになるものを伝え、共感いただき、購入いただく。商人の喜びはそこにあります」
売れるから売るのではなく、哲学・理念に基づいて売るべきものの価値を伝える――そこに商人の使命と醍醐味がある、と丸岡さんは教えてくれました。