「20世紀は“成長の世紀”でしたが、21世紀は“縮む世紀”です。20世紀は『大きくするぞ』『儲けるぞ』と、言ったもん勝ちでしたが、21世紀は先のことは何も言えん。言ったら負けです」
かつてこう語っていたのは、100円ショップ最大手「ダイソー(DAISO)」を一代で築いた商人、矢野博丈さん。2月12日、心不全のためなくなりました。享年80歳。
1943年に中国で生まれ、戦後、日本に引き揚げ。学生結婚した妻の実家のハマチ養殖業を継いだものの3年で倒産、700万円の借金を負い夜逃げ。その後、セールスマン、ちり紙交換、ボウリング場勤務など9回の転職を重ねた後、1972年に雑貨をトラックで移動販売する「矢野商店」を創業しました。
1977年に大創産業として法人化。1987年から100円ショップの展開を始め、1991年には香川県高松市に常設の直営1号店を構えました。同社が展開するDAISOなど3ブランドの店舗数は国内4360店、海外25の国と地域で990店。2023年2月期の売上高は5891億円という業界最大手をつくった商人です。
何度も本社のある東広島市を訪ね、取材をさせていただきました。いま手許にある記事は、そのうちの一つ、「商業界」2009年10月号のもの。生前を偲びつつ、矢野語録を紹介します。
「ワシは能力にも運にも恵まれなかったから、ここまで来れた。ありがたいことです。ワシもかつては夜逃げをし、死のうと決めたこともある。そのつらさを思えば、努力するくらい楽しいことはないよね。もがき苦しみ、泣き叫びながら、それでもやるしかないんじゃないですか」