「ペルソナ」という言葉をご存知のことと思います。ラテン語で、もともとは古典劇において役者が用いた仮面のことでした。それがマーケティング用語に使われ、商品開発の際に設定する架空の人格を表わすようになります。
名前・年齢・性別・趣味・住所などをはじめ、細部に至る人物像をつくりだし、その人格に感情移入することで、使いやすさに優れた製品・商品の開発に結びつけたのです。今では商品開発のみならず、顧客を持つあらゆる産業で活用されています。
この「理想の顧客像」を明確にすることが重要性を増しています。その理由の一つに、買物環境の多様化があります。かつて買物は、最寄り品は近所で、買回り品は少し遠くの繁華街でするものでした。モータリゼーションの進展により、商業立地が中心市街地から郊外ロードサイドに移るなどの変化はありましたが、そのパターンは限られたものでした。
しかし、インターネット環境の一般化は、ネット通販はもちろん、オークションサイト、さらにはフリマアプリといった個人間取引まで、買物の次元を拡大させました。生活者は欲しいものをスマホで、それを出品する個人から買うことすら簡単にできる時代です。
日本のスマホ普及率は90%を超えています。「欲しいものは店で買うもの」という思い込みは過去の常識となりました。お客は、あなたから買わなくてはならない理由をもはや持ち合わせていないのです。
商業界草創期の指導者、岡田徹はこう書き遺しました(『岡田徹詩集』商業界刊)。
あなたの今日の仕事は、
たった一人でよい
この店へ買いにきてよかったと
満足してくださるお客さまを
つくることです。
あなたの店があるおかげで
人生は愉しいと
知ってくださることです。
では、あなたにとって、たった一人の“満足してくださるお客さま”とは誰でしょうか。そんなお客さまをまぶたに思い浮かべ、その人に「人生は愉しい」と思ってもらえる商いを組み立てる。そんな商いができたら、どんな時代であれ、お客さまはあなたから買わずにはいられなくなるのです。
さらに岡田はこうも書き遺しています(同)。
一軒の店を持つ
その店を繁昌させる
その秘訣はいかんと
私に問う人あるならば
私は言下に答えよう
一人のお客のために
もっと誠実であれと
一人のお客のために
もっと真実な愛情を持とうよ
その誠実さだけが
あなたを日本一の商人に仕上げる道だと
眼前の一客にどれだけ誠実になれるか? あなたが問われているのは究極そこにあります。