善とされることの大半は
金儲けと縁が遠い
ただ正しい商売のみが
真善美と一致する
私がかつて編集をあずかっていた月刊誌「商業界」。創刊は1948年、戦後わずか3年という混乱の時代に、一人の男の情熱と、それに共感する人たちの友情から生まれました。まちには闇市があふれ、商人の職業倫理は地に落ちていた時代です。
その男の名は倉本長治。新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の主人公であり、その生涯を商業の健やかな成長に尽した「昭和の石田梅岩」と呼ばれた人物です。
一.損得より先きに善悪を考えよう
二.創意を尊びつつ良い事は真似ろ
三.お客に有利な商いを毎日続けよ
四.愛と真実で適正利潤を確保せよ
五.欠損は社会の為にも不善と悟れ
六.お互いに知恵と力を合せて働け
七.店の発展を社会の幸福と信ぜよ
八.公正で公平な社会的活動を行え
九.文化のために経営を合理化せよ
十.正しく生きる商人に誇りを持て
倉本の教え「商売十訓」は、私が商いを考える上で大切にしている教えです。短い言葉ですから、わかったような、わからないような……。私もいつも、これはどういう意味なのかとくりかえし考えています。現時点の理解を、拙著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』に記しています。
「商売十訓」をひと言で表現するなら「真善美」の教え。認識上の真と、倫理上の善と、審美上の美という理想を実現した最高の状態をいい、それが商いには必要だと倉本は説きました。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、倉本長治の教え子の一人。真善美について次のように語っています。
「僕は、人間の英知は古今東西変わりがないと思っていて、その集約したものが真善美だと思っているんです。真とは正しいこと。経営は特に、道理も感情も全部筋が通っていないといけない。一般に通用する正しい考え方で経営しないといけないということです。当社の企業理念の中にも『正しさへのこだわり』を入れている。それは長期的にお客様の生活が良くなるということです」
売る者の幸福とは、買う人の幸福をつくるところにあります。「商売十訓」は、きっとあなたの商い、ビジネスにも役立つでしょう。