商売のやりがいはどこにあるのでしょうか。それは売り買いのたびに、お互いに心あたたまる商売をするところにあります。
かつて、ある一枚のチラシがまかれたときの話です。あるまちの老舗呉服屋の跡取りであり、まだ学生であった若者の商売は、太平洋戦争後の焼け野原から始まりました。空襲によって灰塵に帰した店舗の跡地になんとか小さなバラックのような店を建て、営業再開を知らせるチラシに若者はこう書きました。
「焦土に開く」
日中戦争以降、暮らしは統制経済下に置かれ、商人は自由に売ることも、チラシをまくこともできませんでした。それゆえ、チラシを見た多くのお客様がその店を訪れ、中には「やっと戦争が終わったんですね」と涙を流す人もいました。
新しい時代の始まりを、一枚のチラシが告げたのです。そのとき「小売業は平和産業である」という確信を抱いた若き商人こそ、岡田屋七代目、イオンを創った男、岡田卓也さんでした。彼もまた、新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の主人公、倉本長治の教え子の一人です。
暮らしに楽しさが添えられ、平和がもたらされ、幸福が感じられる商品を専門的な知識や経験で、間違いなく提供するために社会に存在するのが商人です。そんな自覚の上に立って、「ああ、良いものが買えた」と人々に喜んでもらうためにあるのが商店なのです。