「小売の輪」という経営用語をご存じでしょうか。アメリカの経営学者マルカム・P・マクネアが提唱した小売業の業態進化を説明する理論。次のように変化しながら「輪」のように一回転するたびに小売業の主役が交代するというものです。
1. 革新的小売業者が低コスト・低サービス・低価格路線で既存の事業者の顧客を奪い、市場でのシェアを拡大。
2. 同じ手法を用いた追随者が現れる。
3. 品揃えやサービスでの差別化を図り、高付加価値路線に移行していく。
4. あらたなイノベーションを用いた革新的小売業者が現れて顧客を奪っていく。
たしかに、日本の小売業の主役はかつての百貨店から総合スーパーへ、さらに「カテゴリーキラー」と呼ばれた専門店チェーンへと移り変わっていきました。このとき小売の輪を回したのは「低コスト・低サービス・低価格路線」であったことは一面では事実であり、一面では外れています。
それを証明するのがコンビニエンスストアです。セブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3チェーンは、日本の小売業ランキングで上位に位置していますが、その特徴は「定価販売・高マージン・高利便性」と小売の輪の理論からは外れます。
さらに成長著しいのはドラッグストアチェーン。ウエルシアHDがドラッグストアとして初めて売上高1兆円を超えると、その後にはツルハHD、マツキヨココカラ&CO、コスモス薬品が1兆円に迫っています。その品揃えは、消費者にしてみれば「医薬品も取り扱っているディスカウントスーパー」というべき変化を遂げています。
古典的な理論や業態論では説明できない企業や事象に満ちた小売業の世界。その変化の速度はこれからますます早くなるでしょう。