「一店逸品運動」とは、店がお客様に自信をもってお奨めできる商品、すなわち「逸品」を扱うことで個店、そして商店街など地域商業の活性化を図ろうという活性化策。じっくりと検討し、異業種の商人仲間の中でもまれ、磨かれたのちに生まれ、自信を持って奨められる逸品の存在は、店の品揃えも、店の在り方も、商人としての意識をも変え、まちに活力を生み出します。
「自店の強み、顧客のニーズを考え、逸品として表現していくことで、店の品揃えが変わり、店自体が変わり、店主や売場に立つ人の意識が変わる。訪れるお客さまの意識も変わっていくという意識改革です」と、全国で一店逸品運動を指導している一店逸品運動協会理事長の太田巳津彦さんは目的を語ります。
今日のブログは、一店逸品運動に14年にわたって取り組む北九州・小倉の「小倉逸品屋フェア実行委員会」の事例から、その本質について触れてみたいと思います。なお、小倉逸品屋は実行委員会を主催として、協同組合日専連北九州、魚町商店街振興組合などが共催するオール小倉のまち商人の取り組みです。
実行委員長を務める清水悠治さんは、小倉逸品屋に参加して今年で11年目。セレクトショップ「サロンド・K」店主の清水さんはほかにも、市内外にある親会社の複数店舗の仕入れや管理などの統括を担っています。
日専連北九州の先輩、禱峰晴さんから誘われ参加すると、「逸品とは何かを考える時に、以前にも増して、共に店を運営する妻やスタッフたちの声を聴くようになりました。逸品とは私自身が“これだ”とお客様におすすめできるものであることはもちろんですが、最終的には“お客様のためになるもの”であることが大切だと思うようになりました」といいます。
「普段から店頭に立って、お客様と直接コミュニケーションを取る彼女たちのひと言にそのヒントがありますから、どんな小さなことでも積極的に耳を傾け、相談するようにしています」という清水さんが逸品として選んだのが、一つのハンガーでした。
滑りやすい素材でできた衣類の収納方法、収納スペースで幅を取ってしまう厚みといった一般的なハンガーに対するお客様の“よくあるお悩み”の声を丁寧にすくいあげた逸品だ。通常のものに比べて細身で場所を取らず、滑り止めつきのハンガーは、お客様のニーズをとらえ瞬く間にヒット商品になりました。
実行委員長として、逸品に取り組む仲間とのコミュニケーションを図り、一店逸品運動の活性化を図る清水さん。今年度の第1回の研修会ではその第一歩として、“逸品を通して何をしたいか”を仲間同士で発表し、共有したといいます。長く取り組めばこそ、どうしてもメンバー同士で“なあなあ”の空気感が生まれてしまいがち。それを変えるための一手でした。
「最初に目標や目指すゴールをしっかりと掲げる。そうすることで達成のためにはどうすればいいかと思考や行動の幅が広がりますし、振り返りもしやすくなります。また、みんなと共有していますから、緊張感もありますよね。自分では予想していなかった反応、考えつかなかった方法や見方が飛び出してくるのが逸品の魅力。また、そういったアイデアや意見を気兼ねなく話し合える関係性にありがたさを感じています」
毎年、逸品の集大成の一つとして発行している「小倉逸品屋カタログ」。各逸品に添えられたユニークなキャッチコピーの数々も、研修会で交わされたメンバーひとりひとりの熱意が集まって磨かれた成果の一つだといいます。
「一店逸品運動は、自分の熱意一つで成果のゆくえが大きく変わります。私自身、この約10年の中で逸品への挑戦を続けてきたからこそ、商いに活かせる学びを得られました。これからは自身の実感を後に続く仲間にも伝えて、ぜひこの商人として意義のある運動に参加してもらいたいですね」
熱意一つで成果のゆくえが大きく変わる――。そう、どんな事業も「明確な目的」「当事者としての熱意」「継続力」、そして「共に知恵を分かち合う仲間」という四つがあってこそ成果は上がるのです。逆に、どんなに精緻な事業も手段に過ぎず、それが目的化したとき、成果は遠のくでしょう。やるべきことを絞り込んだ一点集中こそ、小さき者の道なのです。