アメリカの国民的画家といわれるグランマ・モーゼスことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスをご存じでしょうか。農場の主婦であった彼女が絵筆をとったのは、70歳を過ぎてからでした。
農場をとりまく風景や生活を素朴な筆致で描いた作品により人気作家となりますが、生涯、農家の主婦としての暮らしを守り、101歳で亡くなる年まで描き続けました。「始めるのに遅すぎることはない」という彼女の言葉が私たちを励ましてくれます。
グランマ・モーゼスに負けない女性が日本にもいます。青森県五所川原市の桑田ミサオさんは1927年生まれ。津軽半島に伝わる伝統食「笹餅」を60歳からつくりはじめ、農協の直売所で販売。材料の笹採りも製粉も、こし餡づくりもすべて一人でつくります。
すると、これがおいしいと評判になり、地元のスーパーマーケットからも扱いたいと声がかかりました。それをきっかけに起業したのが75歳。以来、年間5万個を一人でつくり、多くのリピーターに愛され続けています。
桑田さんが笹餅づくりを初めて数年後、特別養護老人ホームへ慰問に出かける機会かありました。そのときは粟餅をたくさんつくって差し入れると、ある一人のおばあちゃんが「ああ、自分もつくっていたなあ」思い出されたのか、涙を流してくれたそうです。「ああ、餅っこ一つで涙流してくれるのなら、一生続けよう」と心に決めたのでした。
桑田さんは自著『おかげさまで、注文の多い笹餅屋です』のあとがきに「笹餅は、私にとって大切な財産であり、宝です」と記しています。現在は体調不良のため、笹餅づくりをしばらくお休みされているそうですが、ご快復を願わずにはいられません。
財産、宝といえる仕事をあなたもすでに持っているかもしれません。仮に持っていなくても、何かを始めるのに遅すぎることはないことを桑田さんの笹餅は教えてくれます。