笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「とてもじゃないが、まったく追いつきませんよ」と語るのは、先ごろ価格改定をしたという、あるベーカリーの店主。しかし、その後もロシアによるウクライナ侵攻の長期化、30年ぶりの記録的な円安により物価高騰が止まりません。彼は再度の価格改定をするかどうか、頭を悩ませ続けています。彼にとどまらず、そのような店主は少なくないでしょう。

 

原材料高騰の今こそ値決めの覚悟を持つ

 

物価高騰の影響をとりわけ受けているのが製菓製パンの主要原材料の一つ、小麦です。日本で使用される小麦は約9割を米国、カナダ、豪州など海外から輸入しているために、生産量の変動、円安の影響を大きく受けます。

 

小麦は食生活に欠かせないもの。それゆえ、日本では政府が安定的に一括して買いつけ、製粉会社などに売り渡す制度がとられています。その価格は国際的な小麦の相場に合わせて年2回見直されます。これまで安定的に推移していましたが、2021年10月期の改定で19%引き上げられ、さらに2022年4月期の改定で17.3%引き上げられました。

 

 

表に示した「全国の小麦粉1袋1㎏の価格推移」を見れば、その高騰ぶりがよくわかります。2022年9月段階で、全国のスーパーで売られている小麦粉1袋(1㎏)の平均価格は314円。最安値月の2015年1月の227円より87円上がっています。

 

そこで政府は2022年10月の政府売渡価格を「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」に基づき、2022年4月期の価格に据え置きました。2023年4月以降については、2022年3月以降の1年間の買付価格を元に算定するといいます。価格改定は必至です。

 

原材料ばかりではなく、水道光熱費、物流費、包材費などあらゆるコストも上昇が止まりません。2023年も引き続き、製菓製パン業界は原材料の高騰と向き合わざるを得ないでしょう。そのとき、価格をどうするべきでしょうか。

 

「値決めは経営である」とは、京セラ名誉会長の稲森和夫氏の言葉として知られています。利幅を少なくして大量に販売するのか、それとも販売量が少量であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は経営者の意思に委ねられます。どれほどの利幅を取ったときにどれだけの量が売れるのか、どれだけの利益が出るのか、「それを予測するのは非常に難しいこと」と稲森氏は前置きした上で、「自社商品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることが経営の使命を制する」と断じています。

 

原材料高騰と価格改定圧力に向き合う現在、この言葉の意味は重くのしかかります。

 

和洋菓子は誰にどこで買われているのか

 

コロナ禍を経て消費者の購買意識と購買行動が変化し、さらに多くの食品が値上がりする中、和洋菓子は、誰に、どのように食べられているのでしょうか。市場調査会社の矢野経済研究所では、月に1回以上の頻度で和洋菓子などスイーツ類を自分で購入して食べる、首都圏の20代~60代の男女870名を対象として消費者アンケート調査を行い、その特徴を7つの属性へ分類しています。

 

 

最も構成比が高かったのは、買い物ついでに和・洋菓子全般のスイーツを買う主婦(スイーツ主婦)で20.5%。続いて、地域の専門店に通う男性シニア(スイーツシニア)が19.7%。スイーツにガッツリ感を求める若年女性(スイーツOL)、シュークリームなどの身近な洋菓子を時々食べるグループ(お手軽洋菓子)、コンビニでスイーツを購入する若年男性(スイーツ男子)が15%度でほぼ同率。続いて、スイーツには予算に糸目をつけない甘党グループ(スイーツセレブ)が8.6%、団子などの身近な和菓子を時々食べるグループ(お手軽和菓子)が4.1%となっています。

 

本アンケートから、同研究所は「シュークリームや団子などスーパーマーケットやコンビニエンスストアでも購入できる身近なスイーツへの需要が幅広い消費層から集まる」と分析。コロナ禍により打撃を受けたギフト需要とは対照的に堅調に推移する自家消費需要において、専門店の存在価値は下がる傾向にあります。

 

従来のマーケティングが通用しない時代

 

そうした背景には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という「P」を頭文字とする、4つの要素から成るマーケティング戦略において、多くの専門店がスーパーマーケットやコンビニエンスストアに後れをとっている現実があります。

 

たとえば、ジェネリック銘菓です。その土地、その専門店ならではの土産品として人気の銘菓によく似た商品を指すが、コンビニエンスストアなどで手軽に安く買えることから市場シェアを広げています。「マーケティングミックス」と言われる前述の4Pだけで戦ったら、専門店に勝ち目はありません。土俵を変えなければなりません。それが次に紹介する「新しい4P」です。

 

① philosophy(哲学・理念)
消費者は単に「安さ」だけを求めているのではありません。商品の中にphilosophy(哲学・理念)を見出すことができれば、price(価格)は二の次になる時代を迎えています。

 

② story-rich product(物語性豊かな商品)
product(製品)は機能、価格、デザインばかりでなく、story-rich(豊かな物語性)という付加価値が加わってこそ、思わず誰かに伝えたくなる魅力を持ちうるのです。

 

③ personality(個性・人柄)
多くの情報があふれ混乱する今日、消費者が重きを置くのは信頼のおける人からの情報です。信頼できる対象となるために大切なのがpersonality(個性・人柄)なのです。

 

④ promise(約束・絆)
どれほどの悪立地にあろうと、商圏を超えて多くの顧客が訪れる繁盛店があります。このとき顧客が求めているのは、そこを訪れれば叶えられるpromise(約束・絆)なのです。

 

無論、従来の4Pが無意味ということではありません。ただ、それは最低基準にすぎなくなっています。物価高騰が進む2023年以降を生き残るために必要なもの、それが「新しい4P」なのです。

 

混迷のときこそ原点を確認する

 

「お菓子屋さん」という一篇の詩があります。「昭和の石田梅岩」と言われた経営指導者、商業界創立者の倉本長治の盟友、岡田徹のものです。古くさい表現の詩かもしれませんが、そこには製菓製パン業に勤しむ者たちの原点があります。

 

お菓子はお母さんの味
夕げのあとのだんらんの一刻
丸々と肥えた子らの顔をみつめて
生きることの喜びを想う人たちに
温かい愛情で
力一杯、手を握ってあげようよ。
お菓子屋さんの仕事は
二十円のキャラメル一つに
お母さんの心を添えてあげること
今日の仕事の疲れも忘れて
子らのために生きようとしている人達に
モット光りを
モット喜びを
考えてあげようよ!
あなたのお店で――
フト、亡くなったお母さんを想う
そういうお店になろうよ!
お菓子は故郷の味
住みづらい今日の生活に
家族五人、やっと通れる狭い道を
切り開こうと闘っている人たちに
「頑張りましょう」と
温かく力をつけてあげようよ。
お菓子屋さんの仕事は
一袋三十円のバラ菓子に
遠く去った故郷の寛い心を添えること
どんなに苦しくっても、それを越して
明日に生き抜こうとしている人たちに
モット力を
モット希望を
与えてあげようよ!

 

混迷のときこそ原点を見失ってはなりません。原点とは羅針盤です。正しく、力強く進むためには欠かせないものです。

 

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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