桜が咲く時期になり、そろそろ手袋を仕舞おうかと考える頃です。この冬は片方をなくしてしまい、手許にあるのは左手用の一つきり……。やれやれ。
そんな片割れをどうしようかと思案しながら、ある童話を思い起こしました。二人の息子たちが好きな一冊で、何度読み聞かせたか数えきれません。それは、こんな話です。
〈おじいさんが森の中に手袋を片方落としてしまいます。雪の上に落ちていた手袋にネズミが住みこみました。そこへ、カエルやウサギやキツネが次つぎやってきて、「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と仲間入り。手袋はその度に少しずつ大きくなっていき、今にもはじけそう……。最後には大きなクマまでやって来ました。手袋の中はもう満員! そこにおじいさんが手袋を探しにもどってきました。さあ、いったいどうなるのでしょうか?〉
じつはこの話、ウクライナの古い民話なのです。何世紀も昔から語り継がれるウクライナ民衆の精神文化を象徴するものです。
ロシア軍の侵攻が始まったのが2月24日のことでしたから、彼の地では逃げ惑う人々がきっと多くの手袋をなくしたことでしょう。本書のテーマは、さまざまな出自、背景を持つ者たちの共生にあります。
ウクライナの子どもたちが、心穏やかにこの民話を楽しめる日が早く訪れることを願います。もちろん、ロシアや世界の子どもたちににも……。