「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」
2024年1月、日本マーケティング協会が34年ぶりに「マーケティング」の定義を変えたように、商いの技術は時代とともに変わるのが必然。なぜなら顧客が変わるからですが、私たちはその変化にしばしば取り残されてしまいがちです。
本書『こうして顧客は去っていく』は、これまで新規顧客の獲得ばかりに注力してきたマーケティングから、今いるお客様を大切するビジネスへの転換を提案する一冊。國學院大學経済学部教授の宮下雄治さんは、一時的な顧客づくりよりも、継続的な関係を育むファンづくりのための視点と技術をていねいに解説しています。
キーワードはリテンションマーケティング。リテンション(Retention)は直訳すると「維持」「保持」という意味で、マーケティング用語としては「既存顧客と継続的な関係を維持していくためのマーケティング施策」を指します。「顧客維持戦略」といえるものです。
「企業は世の中の移り変わりと顧客を註しし続けなければなりません。世間と顧客への深い理解を通して、1人ひとり顧客を喜ばせることを追求する営みこそが、企業の繁栄と未来をつくるカギになるのです」(本書270ページ)
①顧客づくりより、ファンづくり
②顧客と生活者の解像度を高める
③顧客の成功を追求する
著者はこれらを「顧客維持戦略を強化する3大鉄則」として提示。デジタルサービスの成否を分ける分岐点としていますが、実店舗でも鉄則は変わりません。
「マーケターは生活者と同じ目線で現代社会に渦巻く不安や不満に敏感でなければなりません」と著者がいうとき、そのヒントはデータ分析といった定量調査だけでは不十分です。データの裏側にある顧客の隠された本音や心理を見抜いていく共感力が欠かせないのです。