感銘を受けた本は数冊買い求め、読んでほしい方に贈る癖があります。これもそうした一冊。新刊では買えないのが残念です。
『なぜ通販で買うのですか』は、通販カタログ誌「通販生活」を発行するカタログハウスの創業者、斎藤駿さんによる小売業論。著者はあるべき通販の形に、次の4点を挙げています。
1.売りたい(売る)商品と売りたくない(売らない)商品の基準を定める
2.可能なかぎり商品テストや使用者追跡調査を行って、商品価値を適正に伝達する
3.売った後のサービス(修理や回収再生)に手を抜かない
4.商品に託して小売の主張を伝える
通販カタログ誌「通販生活」のページをめくると、その具体例を見ることができます。掲載される商品は、一つのジャンルにつき一点に限定され、その商品を選んだ理由、薦める理由が読み物仕立てで綿密に説明されています。
多くの商品の中から消費者に選んでもらうのではなく、販売する側が市場に数多く存在する商品の中から、同社の企業理念を基準にして一点を選んでいます。そして、その一点をロングセラーに育てていくのが同社の特徴です。
こうした姿勢を著者は、商品を是々非々で批判・批評する“商品ジャーナリズム”(たとえば、徹底した商品テストで知られた花森安治・創刊編集長時代の「暮しの手帖」など)と対比して、“小売ジャーナリズム”と表現、同社の理念としています。
「私が小売ジャーナリズムに憧れるのは、それが小売の自己表現だからだ。それぞれの小売がそれぞれの自己表現(人間表現と言ってもいい)で競い合う。(中略)現代の小売企業は、おのれの人間を出さないできたから、『信じられるのは企業じゃなく価格だよ、おたくはいくら引いてくれるの?』になってしまったのだ」(237ページ)
品揃えと値決めは商いの基本であり、経営者の哲学をかたちにしたもの。そこに迷いがある商人にぜひ読んでいただきたい一冊です。