笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

年間1万3000人と、全国有数の視察者数を誇る香川県高松市の高松丸亀町商店街。全長470mの商店街をAからGの7つの「街区」にゾーニングし、商店街の一部だけではなく、すべての街区を対象とした再開発を段階的に行っています。2006年にA街区竣工を皮切りに、B街区、C街区(2009年)、G街区(2012年)とそれぞれ個性的な再開発を進めてきました。

 

この商店街、しばしば「奇跡の商店街」と言われます。「土地の所有と利用の分離」という再開発手法の革新性ゆえ、そこには「他では実現しえない特殊な事例」という意味が込められています。

 

だが、本当にそうでしょうか。

 

こうした見解に対して、「コミュニティさえ残っていれば街は再生できる」と語るのは、高松丸亀町商店街振興組合の古川康造理事長。久しぶりに訪れてみると、高齢者夫妻、小さな子どもの手を引く母親、出産を控えた妻を気遣いながら手をつないで歩くカップルなど、さまざまな年齢層の生活者が、コロナ禍にありながら、明るいアーケードの下をそぞろ歩いていました。

 

 

持って15年、早ければ10年

 

1990年代半ばのピーク時には1日3万8000人あった通行量も、A街区竣工の1年前の2005年には、4分の1の9500人まで減少していました。そんな衰退商店街が2006年には総事業費約66億円を投じて、イタリア・ミラノのガレリアを手本とした高さ32mのドームを要する商業施設「壱番館」を開業。しかも、三越高松店や海外ブランド有力店を組み込んだ集客施設として生まれ変わることのできた原動力はどこにあるのでしょうか。

 

特筆すべきはその先見性にあります。同振興組合では1973年に駐車場用地を購入、不動産会社を設立して駐車場経営を開始。ここで得た収益をまちづくりへ再投資することができました。「街づくり会社」などという言葉も存在しない時代の取り組みです。

 

1988年に開催された開町400年祭は、再開発事業を見ていく上でエポックメーキングな出来事として記憶されています。108日間にわたるイベントを敢行したものの、「100年後に500年祭が今と同じ熱気で迎えられるだろうか」と、前庭幸男前理事長が抱いた危機感が再開発事業の研究を後押しし、1990年の青年会を中心とした「丸亀町再開発委員会」発足へとつながっていきました。

 

「商店街全体で300億円売っていたピークの時でした。前理事長が『(高松丸亀町商店街は)持って15年、早ければ10年』と言い出したんです。まだ、若かった僕たちは本気で聞いていなかったんですが、とにかく言われるまま調査を始めると、“ダメになった街”の法則に自分たちの街が当てはまるんです。そこで大慌てで計画をつくり始めました」(古川理事長)

 

1988年に前理事長が出した指示とは、「成功した例はいらない。失敗した再開発を見てこい」というものでした。古村さんたちが目の当たりにしたのは、郊外店が勢いを増す中、かつての栄光が忘れられない店主たちはそれを軽視し、ついには自ら滅んでいく姿でした。それを目の当たりにした古川さんたち若手は、本気で改革に取り組み始めました。

 

 

コミュニティの力こそ原動力

 

こうして壱番街の開業にこぎつけるのですが、同商店街の開発手法の革新性は、定期借地権を活用し、土地の所有者と事業の運営者を分けた点にあります。しかし、それは容易なことではありません。この事業プランが成立するポイントは、地権者が土地を貸す街づくり会社を信頼できるか、また地権者同士の信頼関係が構築できるかにかかっています。

「議論の中では、意見が対立してつかみ合い直前になることもありました。それでも、日を改めてとことん話し合う。そういうやりとりが4、5年続けるうちに皆の気持ちに変化が表れた。個人の利益をよりも全体の利益を優先させなければと誰もが思うようになっていったんです。もしあのときゴリ押ししていたら、地域のコミュニティが崩壊していました。どんなに資金やアイデアがあっても街は再生できません。でも、コミュニティさえ残っていれば街は再生できます」(古川理事長)

 

コミュニティとは、居住地域を同じくし、利害をともにする共同社会のこと。商人も、商人でない人も、等しくコミュニティの一員です。このコミュニティの力こそが丸亀町商店街の今をつくり出しました。それは決して奇跡ではなく、営々たる人の営みの積み重ねなのです。

 

再開発のコンセプトは「人間中心の再開発。ヒューマンな町を目指す。」。再開発はさらにD街区、E街区へと進んでいきます。

 

 

再開発のコンセプトは「人間中心の再開発。ヒューマンな町を目指す。」。再開発はさらにD街区、E街区へと進んでいきます。そして、世代を継いでさらに進んでいくことでしょう。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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