笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

倉本長治と良品計画〈前編〉

商売には芯が必要です。

 

商いの規模が大きければ大きいほど、そこに関わる人たちは増えます。そのとき芯がなければ、その力の総和も、成果もその規模を生かせません。

 

小さくても同様です。目指す方向が定まらず、同じところをクルクルと回っていたり、後戻りしてしまうでしょう。大も小も同じように、芯があってこそ、あなたの努力は実るのです。

 

1980年12月、西友ストアー(現:合同会社西友)のプライベートブランドとして40品目でデビューした「無印良品」は、現在では約7500品目、展開地域はは日本を含む31の国・地域へと広がり、店数は1万を超えました。

 

そんな無印良品を運営する良品計画には、社員全員が持ち、大切にされている小さな冊子があります。「倉本長治先生語録10選」と名づけられたそれは、良品計画会長の金井政明さんが編んだもの。前編と後編に分けて、かつて月刊誌「商業界」掲載した文章から、金井さんの意図と思いをご紹介します。

 

 

売る側が、消費者の気持ちで考える

――それが倉本長治の教えだ

 

5、6年前だったと思いますが、広島の「アンデルセン」というパン屋さんの先代の奥様が、新聞のコラムで「雑巾がけは自分の精神も磨く。そういうことがすごく大事な教育なんだ」といったことを書いていらっしゃるのをたまたま読みまして、その方に直接会いに行ったんですね。

 

その足で同じ広島のイズミさんに寄って、社長の山西泰明さんにその話をしたところ、倉本長治(商業界創立者)さんの話が出て、「当時の商人は、倉本先生の講座を聞いて、すごく勇気をもらって立ち上がったんだ」と聞かされたわけです。

 

その一方で、私には「会社の規模が大きくなると人が増え、いろんな部署ができた結果、社員の仕事が『バケツリレー』のごとく流れていってしまう」という経営者としての悩みがありました。

 

 

会社に人が少ないころは、数人でバケツ全体をA地点からB地点まで持っていくしか方法がありませんから「バケツリレー」はあまり起きないのですが、会社が大きくなってくるとパーツごとに仕事が分断されていってしまう。

 

ならば、その「バケツリレー」を何か1本の筋でつなげて、それぞれの仕事がクロスして分断されないチェーンのような構造にしていけばいい。

 

そのために必要な横串は「商売の原点」や「お店の原点」といったことをみんなで共有することではないかと考えて、私自身が倉本長治さんの残した文献を当たり、言葉を選び「倉本長治先生語録10選」という小冊子をつくって、無印良品の店長はじめ社員に配布したんです。選んだ語録は「本来、無印良品はこうあるべきだろう」ということを端的に表したものばかりです。

 

 

無印良品「消費社会への対立命題」と

倉本長治の思想

 

日本の近代小売業の原点として、「戦後、荒廃から立ち直るためには、地域の商店がまっとうな商売をして地域の役に立たなきゃだめなんだ」「日本再興のためには地域に根付いた商人が必要なんだ」と説いた倉本長治さんのお話には、その後、日本で広がったチェーンストア理論のさらに元となる「商人の原点」があって、「商人の使命」が書かれていると思います。

 

その意味で、セゾングループの堤清二さんは、金太郎飴的なチェーンオペレーションに関しては極めて懐疑的であり、それに倣ってセゾングループの各社は、チェーンストア的価値観とは一線を画した価値観を持っていました。

 

その結果、セゾンは緩やかな統制下にあって、個店の現場力が非常に大事にされ、そこはイトーヨーカ堂さんやイオンさんとはまったく違う体質であったと思います。

 

 

もちろん、それは強みにもなれば、弱みにもなる。功罪もあって、われわれ良品計画としては、その功をいかに伸ばし、罪をいかに減らしていくかというところが常に問われてきたのですが、そのための一つの軸をつくろうと考えたことが、倉本長治さんの話につながってきたわけです。

 

もともと無印良品には、極めて強くはっきりした思想概念があり、その一つの軸が「消費社会へのアンチテーゼ」でした。時に「セゾンは売ることにあまり価値や目的を認めていないのではないか」といった誤解を受けることもあったわけですが、そうであるからこそ、そこに「商人」ということ、「売る」ということ、「商う」ということが、どのくらい世の中にとって大切なことなのか、という一本の筋を通したかった。

 

私が選んだ倉本長治さんの言葉は、私たちの店長やスタッフの皆さんにきちんと認識をしてもらいたかったことですが、元の言葉に忠実に、そのまま配布しました。私が似たような文章を書いて「こうだよ」と言うよりも、戦後の荒廃した日本において、倉本さんのような商業経営の指導者が現れ、中内さんや岡田卓也さんなど当時の日本のチェーンストアを目指す若手経営者を鼓舞し、それに呼応するように彼らが立ち上がっていった、という事実を、背景も含めて伝えたかったのです。

 

 

ただし、日本のチェーンストアの「その後の」歴史を見ると、当時、倉本さんがおっしゃっていたことをどこで忘れてしまったのかな? とも感じています。そういう想いも含めて、倉本さんの生の言葉をそのまま使わせていただいたのです。要は、当時の中内さんたちが倉本さんから鼓舞されたのと同じことをしたかったんです。

 

というのは、いまだに小売業のポジショニングは飲食業も含めて決して高い位置にはなく、それに対して「そうじゃないんだ」「商業は極めて重要なミッションであり、大きな使命を持っているんだ」ということを無印良品で働いているみんなに伝えたかったし、現場のスタッフの人たちが自分で意志を持って、自分で考えて仕事をすることが大事で、それこそが価値を生むんだ、ということを私は伝えたいと思いました。

(後編へ続く)

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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