笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

欠損は社会の為にも不善と悟れ――とは、拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の主人公、倉本長治の唱えた商人の行動訓「商売十訓」の一つ。なぜ一企業の欠損を、社会に対する不善というのでしょうか。このとき、欠損の対極にある「利益」について考えると、理解はより深まります。

 

利益とは、そもそも自社だけのものと考えてはなりません。商売をより良くする原資として、お客様から託されたものなのです。

 

利益とは商いをお客様から信頼された証拠であり、店や企業がどれだけ社会のために役立ったかを測るものさしにほかなりません。それゆえ、利益の確保は商人の果たすべき社会的責任です。利益を原資として人々の生活を豊かにしたり、文化を育てたりするのが店や企業の役割です。

 

どの店も企業も事業を継続するかぎりは、利益を上げなければなりません。儲からなければ、託された役割を果たすことはできないからです。だから、欠損、赤字の店や企業は社会にとって害悪であり、成長がないのは不善とされます。

 

それなのに、多くの店や企業が利益を軽視しています。赤字を出してしまえば、新たな商品を生み出したり、もっと買いやすく楽しい店舗に改装したり、お客様に価値ある情報を提供できなくなります。そうなるとあなただけの損にとどまらず、社会全体の損失となります。

 

商人の誠実さというものは繁盛で証明され、商人の知恵の深さというものは利益で測ることができます。良い商人は己の利益だけを見ないで、お客様や従業員の利益をまず考えます。欠損を自社だけの問題に矮小化する商人は必ず、利益も己だけで独り占めするでしょう。

 

ここに、競合他社より高い利益率を追求することで、お客様に役立ち続ける店があります。

東京・町田市、大手家電量販店がひしめく超激戦地で、売上至上主義から荒利本位主義へと転換を図り、高収益を実現した家電店「ライフテクト ヤマグチ」です。

 

同社の価格は大手家電量販店より2~3割高く、粗利益率は大手家電量販店の20%後半に対して44%超。安売り競争に背を向け、ワン・トゥ・ワンの顧客サービスで高売りを貫いています。

 

「うちのお客様は値段でうちの商品を判断しません。うちの存在がなくなると困るから、よそより高くても買ってくださる。それには、お客様に日頃からとことん尽くすという前提があります」とは、同社の山口勉社長。

 

たとえば、冷蔵庫が壊れたといえば、すぐに駆けつけるのはもちろん、冷蔵庫の中身の保冷のために氷を持っていくのが同社の日常です。家族で旅行に行くとなれば、留守の間、庭木に水をやり、ペットの餌や散歩の面倒をみるのも当たり前。大掃除でたんすを動かすとなれば手伝いに行きます。

 

「困ったとき、気軽にうちに電話してきてくれるお客様とのつながりを最も大切にしています。安さで買ってくれたお客様は、他が安ければすぐに離れていく。単にお客様を増やすのではなく、信頼でつながるファンを増やすのです」と山口社長。

 

「かゆいところに手が届くサービス」とは同社のモットーの一つだが、さらにお客様がかゆくなる前に手が届くサービスを徹底することで、同社は価格に踊らされない顧客を創造しています。それができるのは利益があるからです。

 

さて、あなたが欲しいのは売上でしょうか。それとも利益でしょうか。前者ならば、値下げすれば望むものをすぐに得られる。しかし、それでは利益が残らず、その先に企業の永続的な未来はない。

 

もう一つ問います。価格と信頼、あなたはお客様とどちらでつながりたいでしょうか。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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