一、私たちの使命は何か
二、私たちの顧客は誰か
三、顧客にとっての価値は何か
四、私たちの計画は何か
五、私たちの計画は何か
これはファーストリテイリングの柳井正さんが「この人の本を何度も読み返した」というドラッカーが問いかける経営者への五つの質問。単に経営者ばかりではなく、あらゆる仕事、年代の一人ひとりにとって大切な問いだと私は思っています。
五つの質問の筆頭に掲げられているのが「使命」への問いです。そう、すべての営みの出発点であり、目的地です。ドラッカーを信奉する柳井さんにとっても同様です。
先ごろ手にしたファーストリテイリング発行の「統合報告書2023」に興味深い写真が、その解説とともに掲載されていました。それは1979年、当時30歳の青年であった柳井青年がノートに記した小郡商事の経営理念です。
大学卒業後、親の口利きで入社したジャスコを1年足らずで辞め、1972年に親が営む小郡商事に入社した柳井青年。今日では世界各国に2300店舗超を数える「ユニクロ」1号店を広島市に開店させる5年前に、17項目からなる経営理念をつくりました。
1.顧客の要望に応え、顧客を創造する経営。
2.良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営。
3.いかなる起業の傘の中にも入らない自主独立の経営。
4.時代に適応し、自ら能動的に変化する経営。
5.社員一人ひとりが自活し、自省し、いきいきとした組織の中でのびのびと働ける人間中心の経営。
6.世界中の才能を活用し、自社独自のIDを確立し、若者支持率No.1の商品、業態を開発する、真に国際化できる経営。
7.唯一、顧客との直接接点は商品と売場であることを徹底認識した、商品と売場中心の経営。
8.社長中心、全社員一致協力、全部門連動態勢の経営。
9.スピード、やる気、革新、実行力の経営。
10.公明正大、信賞必罰、完全実力主義の経営。
11.管理能力の質的アップをし、無駄を徹底排除し、採算を常に考えた、高効率、高配分の経営。
12.成功、失敗の情報を具体的に徹底分析し、記憶し、次の実行の参考にする経営。
13.積極的にチャレンジし、困難を、競争を回避しない経営。
14.プロ意識に徹して、実績で勝負して勝つ経営。
15.一貫性のある長期ビジョンを全員で共有し、正しいこと、小さいこと、基本を確実に行い、正しい方向で忍耐強く最後まで努力する経営。
16.商品そのものよりも企業姿勢を買ってもらう、感受性の鋭い、物事を表面よりも本質を追求する経営。
17.いつもプラス発想し、先行投資し、未来に希望を持ち、活性化する経営。
ここに3兆円企業の原点がありますが、ドラッカーは「常に使命を見直せ」とも繰り返し説いています。そこに、自身の存在理由である使命を常に疑い、あらためることをためらわない真摯さをドラッカーは求めています。
柳井さんも真摯さを大切にする経営者です。たとえば上記の8項目目は「社長中心」と始まりますが、すぐに「全社員最適」と書き換えられていることが写真からもわかります。なぜなら柳井さんは倉本長治の言葉「店は客のためにあり、店員とともに栄える」から学んだからです。
小郡商事経営理念はその後も常に見直され、ファーストリテイリング経営理念23カ条となり、次の項目が追加されました。20項目「自分が自分に対して最大の批判者となり、自分の行動と姿勢を改革する自己革新力のある経営」に、同社が現状に安住しない理由が見てとれます。
18.明確な目標、目的、コンセプトを全社、チーム、個人が持つ経営。
19.自社の事業、自分の仕事について最高レベルの倫理を要求する経営。
20.自分が自分に対して最大の批判者となり、自分の行動と姿勢を改革する自己革新力のある経営。
21.人種、国籍、年齢、男女等あらゆる差別をなくす経営。
22.相乗効果のある新規事業を開発し、その分野でNo.1になる経営。
23.仕事をするために組織があり、顧客の要望に応えるために社員、取引先があることを徹底認識した壁のないプロジェクト主義の経営。
「考えるべきは、使命は何かである。使命の価値は、正しい行動をもたらすことにある。使命とは、組織に働く者全員が自らの貢献を知りうるようにするものでなければならない」とはドラッカーの著作からの一文。今日、45年前、柳井青年が決意した経営理念は「FASTRETAILING WAY」と名称を変えて見直されつつ受け継がれ、13言語に翻訳されて「組織に働く者全員」に共有されています。
おそらく、あなたの店や会社にも経営理念はあることでしょう。しかし、つくったきりのお題目、つまり建て前やお飾りになってはいないでしょうか。使命または経営理念とは常に見直し、関わる人たちと共有してこそ生きた力となります。
拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』もそう。100篇一つひとつを自分ごととして考え、社員、取引先といった関わる人たちとともに追求してこそ、単なる知識は困難を乗り越えていく知恵となるのです。