笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

企業信用調査会社の帝国データバンクによると、業歴100年を超える老舗企業は2023年9月時点で4万3631社。世界で創業・設立から100年以上経過した企業の数は2022年時点で約7万5000社とされており、そのなかで日本企業が占める割合は大きく、群を抜いた「老舗大国」と言われます。数多くの自然災害や第二次世界大戦などの戦禍を乗り越え、息長く事業を続けていくことは容易ではありません。

 

その一つに、住友商事があります。先日ご縁があり、訪れるに際して、あらためて同社の歴史を学びました。老舗を老舗たらしめているものは何か? それを知ろうという思いもありました。

 

17世紀、住友の歴史は初代・住友政友が京都に書林と薬舗を開設したことに始まります。政友は商人の心得を説いた「文殊院旨意書(もんじゅいんしいがき)」を残し、商人の心得を簡潔に説いています。仏教の教えをもとに、政友の処世観が表わされています。

 

冒頭では、「商事は言うに及ばず候へ共、萬事精に入れられるべく候(商売はいうまでもないが、何事も粗略にせず、すべてのことについて心を込めて丁寧慎重に励むように)」と、商人である前に誠実と努力を重んじ、人として人格を磨くことを説いています。「萬事入精(ばんじにっせい)」という言葉で表されることもあります。

 

この一文に続いて、「相場より安いものが持ち込まれても、出所がわからないものは盗品と心得よ」「誰であろうと宿を貸したり、物を預かったりするな」「他人の仲介や保証はするな」「掛け売り、掛け買いはするな」という当時の商売における具体的な注意事項が示され、最後に「他人がどのようなことを言っても短気になって言い争うようなことはせずに、繰り返し詳しく説明するように」と、人と接する際の心構えが記されています。

 

 

薬屋と本屋を営んだ政友ですが、幼いころから僧籍に入り修行を受け、市井の僧侶として人々に教えを説き続けた人物でもあります。そのような政友だからこそ、商売の心得や商人としてのあり方の前に、まずひとりの人間として社会に通用する誠実さと優れた人格を求めたのでしょう。

 

ただ金儲けに走ることなく、人間を磨き立派な人格を醸成するよう説いた政友。その姿勢と教訓は、住友の伝統として現代に受け継がれており、「浮利を追わない」「法令順守」「信用・確実」といった住友の事業精神の根幹に生き続けています。

 

 

店は客のためにあり
店員とともに栄え
店主とともに滅びる

 

拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』のタイトルであるこの一文は、「日本商業の父」と言われた経営指導者、倉本長治の遺した言葉です。3行目の「店主とともに滅びる」の意味を問われることが少なくありませんが、私は「店主が創業の志を忘れたとき、店はあっけなく滅びるという戒め」と説明しています。

 

住友にとって、創業の志とは政友の遺した「文殊院旨意書」にほかなりません。それを代々の店主が心に刻み、実践してきたからこそ、住友は今日まで続いてきたのでしょう。あなたの店ではいかがでしょうか。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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