記録をたどると、初めて彼と会ったのは2013年9月のこと。彼が商うまち、愛知県岡崎市を訪ねてから、もう10年も経つのかと思う一方、つい昨日のようなことにも思えるのは、おかげでそれだけ多くの交流を重ね、友情を育んできたからにほかなりません。
商業界2013年11月号で初めて大きく特集したときの実施地域は76カ所。それが今では450地域の約2000の商店街で取り組まれている個店活性化事業であり、事業者と生活者のコミュニケーション事業です。参加事業者は推定3万にも及びます。
その後も折々に特集を掲載、さらに各地域の取り組みを連載で追いかけ、ときには取材者として、ときには編集者として、そして同じくまち商人を応援する者として、彼の並外れた実践力とまち商人に対する熱い思いにふれてきました。彼とはもちろん、新著『みんなのまちゼミ』の著者であり、まちゼミの伝道師、松井洋一郎さんです。
岡崎の実践を皮切りに、全国各地のまちゼミを取材する中で出会ったのが、みずからの商いに誇りを持ち、まちを愛する商人たちでした。彼らもまた松井さんと同じように、まちゼミの実践を通じて、お客様に深く寄り添い、仲間どうしを助け合い、まちの活性化に貢献しようと、まち商人として成長していることが、本書には書かれています。
それはとても心強いこと。本書を読むことで元気になれるのは私だけではないはずです。本書に登場するまちゼミ商人はもちろんのこと、彼らと実践を共にする仲間たちにとっても、これからを明るく照らす一冊です。ここでは本書(4ページ)から、まちゼミの本質を示す文章を紹介します。
〈まちゼミによって「商売の面白さを思い出した」という店主やスタッフたちが続々と現れました。直接、消費者の方々と触れ合う機会ができたことで、各店では、品揃えを変えたり、売場を新しくしたり、サービスを工夫し始めました。あれもこれもやりたいと、店主たちにとってやりたいことはどんどん膨らみ、実際にお客様が来店するようになり、売上もあがっていきました。
まちゼミの開催のため店どうしで連絡を取り合うようになると、みな、自分の店だけでなく、商店街全体のことを気にかけ始めました。図書館や小中学校などとの付き合いも始まり、みな、まち全体、地域全体のことを考え始めたのです。
そしてみな、この地域で自分がなぜ店を開き、商売を続けているのか。その意味を考えるようになりました。
地域全体を見る目を持つようになった店主たちは、「まだまだやれることがある」ことに改めて気づきました。そうして、やればやるほど、地域での店と自分の役割を理解していったのです。
引退しようと考えていた店主が、まちゼミに取り組むことで、もう一度、商売をやってみようかと考え直しました。まちゼミを機会に、それまでやったことのなかった新しい分野の商売を始めた人もいます。まちゼミに取り組む店主たちに背中を押され、新しく店を開業した人もいます。後継者が現れた店もあります。店主はうれしそうに若い後継者に仕事を教えています〉
実践者であれば誰でも「そう、そのとおり」と共感するこれまでの経験でしょう。これからまちゼミに取り組む人に対しては、これから実感できる未来であることを保証しましょう。
本書『みんなのまちゼミ』は、日本の商業史に特筆されるべき「まちゼミ」20年の歴史と成果であり、それに取り組んできた全国のまちゼミ商人の記録。ひとに笑顔を、事業に未来を、地域に活力を目指す商人の必読書です。