得た利益をどう使うのか、そこにその人の本質があらわれます。すべてを自分の取り分ともできますが、あなたの商売が社会のためにあるなら、よりお客様のために役立つように使うはずです。
商人にとって儲けとは「お客様からの感謝のしるしとして与えられるもの」と、商業界創立者の倉本長治は表現しました。儲かることは、商人として社会に貢献できた証拠なのです。
静岡県熱海市に、天秤棒一本の行商から身を興し、大火で店が全焼しても問屋への支払いを守った一組の夫婦商人がいました。当時、旅館相手の掛け売りとリベートが横行していた熱海は「日本一物価が高い」と言われ、現金で買う生活者は苦しんでいました。
後に「ヤオハン」と名乗った「八百半商店」の和田良平、カツ夫妻は、熱海のお客様のためにと、現金正札販売を断行。これは、すべての顧客に同じ価格で販売し、現金取引のみとすることで利益を顧客に還元する販売方法です。
これまでの商習慣を変えるには困難を伴います。しかし夫妻は「正しいことをやるのだから恐れることはない」と、貯えを切り崩しながら続けること1年あまり。粗利益をほんの1%上げれば黒字というところまできたとき、カツは夫に1%の値上げを提言します。すると良平は「ならばまだ頑張れる」と、さらに1%の値下げを決断したのです。
「長い間商売をやってきて、今、商人として生まれて初めてお客様からありがとうと感謝「されました」とカツは振り返ります。ここに本物の商人がいました。