日本の小売業で初めて売上高10兆円を超えたセブン&アイ・ホールディングス(2023年2月期)。各段階利益ともに過去最高を達成しており、その大半を占めるのが「セブン‐イレブン」を展開するコンビニエンスストア事業であることはご存じでしょう。今回の一冊は、米国で生まれたコンビニエンスストアに可能性を見いだし、それを日本において再発明した経営者の一冊です。
いまを決めるのは
過去ではなく未来
鈴木敏文。出版取次大手のトーハンから、当時はまだ5店舗の中小企業だったイトーヨーカ堂に転職、一貫して管理畑を歩いてきた著者がコンビニを知ったのは40歳代、米国での視察研修中、移動休憩で道路わきの小型店に立ち寄ったときのこと。それが、この男の後半生を懸けることになるセブン⁻イレブンとの初対面でした。
取締役としてイトーヨーカドー新規出店のたびに地元との交渉にあたっていた著者の持論は、大型店と小型店は共存共栄が可能というもの。「小型店の問題点は生産性の低さにあり、それが市場の変化への対応を困難にさせ、凋落の原因となっているととらえ、これを改善する仕組みさえあれば経営が成り立つ」(52ページ)というものでした。
その仕組みの可能性をセブン⁻イレブンに見いだした著者は、社内外の反対や批判に揺らぐことなく米サウスランド社と粘り強い交渉を行い、1974年5月に セブン-イレブン1号店を東京都江東区に出店します。その後の発展ぶりは省略しますが、同社は常に変化に対応し、お客様の立場に立ったビジネスを続けてきました。売上高10兆円はその一里塚といえます。
本書は、そんな著者の挑戦と失敗と克服の歴史を縦軸に、横軸には著者が実践からつかんだ“仕事の本質”を編み込んだ一冊。「過去がいまを決めるのではなく、未来というものを置くことによって、いまが決まる」(220ページ)という著者の仕事観が本書の主題です。
未来を起点に発想し
お客様の立場で考える
1982年、セブン-イレブンはPOS(販売時点情報管理)システムを導入。当時のPOSはレジの打ち間違い防止が主な目的でしたが、著者は世界でも初めての試みとしてPOSから得た情報をマーケティングに活用したことで知られています。そのとき、著者はPOSの「非常に便利である半面、単品ごとの販売データが詳細にわかるがゆえの怖さ」(181ページ)を見逃しませんでした。
「『昨日のお客様』のニーズと『明日のお客様』のニーズは必ずしも同じとは限らない。だから、昨日の延長線上に考えるのではなく、明日のニーズについて自分で仮説を立て、今日やるべきことを考える」(182ページ)ための手段としてPOSを捉え、目的について記しています。
「その結果をPOSデータで検証し、仮説どおり売れたかどうか、仮説と違っていたらその理由はどこにあったのか、分析し、次の仮説に活かす。(中略)この仮説と検証を繰り返しながら、常に売れ筋と死に筋をつかみ、発注精度を高めて機会ロスと廃棄ロスを最小化していくのが『単品管理』です」
このように、単品管理の実践が目的であって、POSは仮説を検証する手段と著者は明言。しかし、「本質を見失うと、目的と手段が逆転してしまう」(179ページ)といい、目的を実現するはずの手段そのものが目的化してしまうこと危険性を指摘しています。
では、セブン-イレブンの本質とは何でしょうか。
「『コンビニエンスストア』として、お客様が求める商品を、求めるときに、求めるだけ提供すること」にあります。単品管理を日々、目指すのもその本質を実現するためです。(中略)常に『未来を起点にした発想』を持ち、『お客様の立場で』考えれば、自分たちの本質的な目的は何かが明確になるのです」(186ページ)
発想が行き詰ったとき、判断に迷ったとき、ぜひ読んでほしい一冊です。