計数は事業活動に欠かせない羅針盤です。計数を顧みない経営は「夜空を目視で飛行機を操縦するような危険行為だ」と、商業界創立者の倉本長治は言っています。
「中小企業実態基本調査」は、中小企業全般に共通する財務情報、経営情報などを把握するために、中小企業庁が2004年度より毎年実施している統計調査。冒頭の表は2020年度、つまり新型コロナウイルス感染症が発生拡大した年にあたり、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業という「対人接客4業種」の数字がとりわけ悪化していることがわかります。
それぞれの経営指標の算出方法と意味するところを確認しましょう。
自己資本当期純利益率(ROE)
=(当期純利益÷純資産[自己資本])×100
自己資本を活用してどれだけ効率よく利益を上げられているかという収益性を計る指標。一般的には、英語表記の「Return On Equity」の略称である「ROE」と呼ばれます。数値は高いほどよいとされます。日本企業の自己資本利益率の平均は6~8%程度、10%を超えると優良企業とみなされます。なお、数値がマイナスの場合、債務超過と判断できます。
売上高経常利益率
=(経常利益÷売上高)×100
売上高に対する経常利益の割合を指すもので、企業の収益性を確認するための重要な指標の一つです。基本的に、売上高経常利益率が高ければ高いほど、利益幅が大きいことを意味しています。業種によって原価や人件費の水準に違いがあることから、業界によって異なります。自社の売上高経常利益率をみるときは、業界平均と比較しましょう。
総資本回転率
=売上高÷総資産(総資本)
企業の経営効率を計る指標の一つで、総資本を効率的に活用して売上を上げていれば回転率は高くなります。総資本回転率は取り扱う商品や単価によっても異なります。小売業や卸売業など生活に直結する業界では少額の商品を多く販売し、売上を得る必要があることから他業種に比べて高くなります。
自己資本比率
=(純資産[自己資本]÷総資産[総資本])×100
会社の財務面の安全性を表す経営指標の一つです。「全体の資産のうちに、返済しなくていい資本がどれだけあるか」を示します。安全性を示す経営指標にはいくつかありますが、自己資本比率は中長期的な安全性を測るものとなります。一般に30%以上が望ましく、50%を超えると優良とされます。逆に10%を下回ると危険で、0%やマイナスは債務超過を意味します。
財務レバレッジ
=総資本÷純資産(自己資本)
借入金や社債をはじめとした他人資本を含めた総資産が、自己資本の何倍になるかという企業の安定性を示す数値。業種ごとに比較すると最大で差は倍以上になります。小売業や電気・ガス業、海運業などの平均値は4.6~4.1倍ほどで、適正値の倍ほど高くなっています。これは先行投資や設備投資が必要な業種だからです。財務レバレッジを求める際は、業種に合わせた平均値を目安にすることが重要です。
付加価値比率
=(付加価値額÷売上高)×100
企業が物やサービスを販売するときにどれだけ付加価値をつけることができるかの割合。付加価値が高いということはそれだけ企業が価値を上乗せすることができたということになり、つまり利益を上乗せできたということになります。付加価値額は「労務費+売上原価の減価償却費+人件費+地代家賃+販売費及び一般管理費の減価償却費+租税公課+支払利息・割引料+経常利益+能力開発費」で算出します。
さて、ここまで計数の重要性を述べてきましたが、倉本長治はこうも言っています。
「計数管理は大切であるが、これまで諸君がやってきた計算は、店の経営の過去が経済的に眺めてどうであったかを弾き出すために行われがちであった。それと同時に、人間としての行為の善と悪とのバランスシートもつくってみようではないか。経営者の心の総決算をも試みよう。計算表の貸方勘定の増えることばかりを気に病んで、心のアンバランスを顧みないようでは商人であっても、人間としては誉められない」
目に見えるものと目に見えないもの、その二つを大切にしてこそ経営です。