笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

小売業はこれまでどのように進化してきたのでしょうか。その原動力となってきたのは「価格」でした。提供サービスを抑え、設備も簡素化するなどローコスト経営を通じ、既存小売業者よりさらに低価格を訴求する形で市場に登場してくる――これが新しい小売業態が誕生するときの共通点でした。

 

今では高品質、フルサービス、高価格の代表格といえる「百貨店」も、誕生したときは従来の常識を変える革新者でした。たとえば日本の百貨店の先駆者、三越の前身「越後屋呉服店」は、店頭陳列販売(店前現銀売り)、現金正札販売(現銀掛値無し)、現金正札販売(現銀掛値無し)という商法を掲げて1673年に創業しています。

 

これら革新的な小売業者は、価格競争によって既存小売業者の顧客を奪って成長し、市場での地位を確立していきます。しかし、やがて同様のシステムで同程度の低価格を実現した追随業者が続々と登場し、競争が激化していくのも世の常です。それぞれが低価格を打ち出すため、価格は競争の武器にならず、品揃えやサービス、設備の向上などを通じた競争が展開されていきます。

 

その結果、革新的な小売業者が登場した時の低コスト・低マージン経営は、しだいに高コスト・高マージン経営へと移行していきます。徐々に価格が上昇していくところへ、次の新たな革新的小売業者が、低マージン、低価格の形態で市場に参入してくる――このように、「輪」が一回りするごとに、新たな革新的業者が登場し、小売業の革新が進んでいくというのが、米国の経営学者マルカム・P・マクネアが提唱した「小売の輪」の理論仮説です。

 

しかし、どんなことにも例外があります。

 

たとえば、米国で生まれ日本で独自に進化発展した業態「コンビニエンスストア」は小売の輪が外れた存在です。いまや国内2万1000店舗、世界で7万3000店舗、国内一日あたりの客数2000万人、国内チェーン全店売上5兆円となったセブン-イレブンが革新したのは低マージン、低価格ではなく、近くて便利という従来とはまったく異なるものでした。

 

そのセブン-イレブンが新しいコンセプトに基づく店舗開発に取り組むことが3月に発表されました。取り扱いSKUは既存店の約2500に対して5000以上、売場面積も約40坪に対して100~150坪を想定しているといいます。拡充するカテゴリーは、「生鮮品」「冷凍食品」「セブンプレミアム」といった日常の食です。セブン&アイグループの総力をこの新コンセプト店に注力することから、「SIPストア」(S:セブン-イレブン、I:イトーヨーカ堂、P:パートナーシップの略)を略称としています。2023年度上期に実験店舗を出店するとのことです。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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