笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「商店街は2030年代まで、生き残ることができるのか」

 

本書の著者、魚町商店街振興組合理事長の梯輝元さんは「商店街の存在意義を見つめ直す」という項でこう切り出し、その答えとして「私は、商店街と紙の新聞の社会的構造はよく似ていると思う」と続けています。

 

〈払い下げにより所有する土地や市場性を排除する日刊新聞紙法によって守られている新聞社の存在は、商店街の存在を想起させる。新聞紙と同様、商店街の顧客は中高年以上の方だし、新聞社は残紙、商店街は補助金という生命維持装置によって命を長らえている。ネット時代に乗り遅れているのも同様だ。(中略)商店街も存在意義(レゾンデートル)を究極まで見つめつつ前に進むほかはないと思っている〉(202ページ)

 

 

では、商店街の存在意義とは何か。本書は、この問いに対する著者の挑戦の歴史です。

 

〈一般に小規模商人は、自らの肉体働くことでしか、仕入れと売価の差額の利益を生み出すことができない。社会的課題を自らの課題と捉え、どんな価値を人と社会に提供するかが商店街においても問われていると思う。エシカル消費とかSDGsに代表されるような新しい価値観を消費者に提供することでしか生き残れないと思っている〉(203ページ)

 

本書でこのくだりを読んだとき、魚町銀天街が日本で初めて「SDGS商店街」を宣言した理由を問うと、「正しいことをやるのに、理由はいりませんよ」と穏やかに答えてくれたことを私は思い出しました。

 

 

江戸時代から続く魚河岸を起源とする魚町は、北九州市随一の繁華街。JR小倉駅から市民の台所としてにぎわう旦過市場まで、南北へ約400m続く魚町銀天街には約160のさまざまな店が軒を連ねています。

 

昭和40年代後半のピーク時には歩行者通行量およそ3万9000人を数え、歩くにも肩と肩が触れ合うようなにぎわいを誇るも、郊外へ大型店の出店が続くと通行量は1万人ほどに減少し、空き店舗が目立つようになっていきました。

 

梯さんは金物店を営む商家に生まれ育ち、魚町の盛衰を見続けてきました。その後、不動産業へと転換した家業を継いだ彼は、既存の不動産を生かしたリノベーションによるまちづくりに取り組み、「リノベーションまちづくりを学ぶならば発祥の地、小倉魚町」と言われるほどになります。

 

2018年4月、北九州市がOECD(経済協力開発機構)からアジア地域で初めてのSDGs推進モデル都市に選ばれると、魚町銀天街は同年8月に「SDGs商店街」を宣言。17のゴールの4番目「質の高い教育をみんなに」と11番目「住み続けられるまちづくりを」を中心に活動を開始します。

 

ある店では廃棄野菜の減少を目指して市場流通から外れるものの鮮度の良い規格外野菜を販売し、ある店では賞味期限間近の食品を仕入れてお値打ちで販売。また、環境保全の観点から竹を活用した商品開発が行われています。

 

〈それぞれの商店が、普段の商いの中でSDGsに取り組むことで、それぞれの商店主が地域の将来への問題意識を持ち、その解決のために『自分に何ができるか』と意識が変わりはじめている〉(196ページ)

 

 

さて、ふたたび著者は本書で「商店街は2030年まで生き残ることが可能なのか?」と読者に問い、持論を展開しています(203ページ)。タイトルは「イオンにない新しい価値を提供する」。長い引用となりますが、ご容赦ください。私も大いに共感するくだりです。

 

〈問屋さんから仕入れた商品を店頭に並べて、通行客に販売する。POPやA看板を店頭に飾ってアイキャッチする、マーケティングやマーチャンダイジングを勉強する、そんなことでは商店街は立ち直れない。高度成長期は、問屋さんの言う通り(少しだけ自分の意見を言って)商品を仕入れたり、交渉して値段をマケさせたりするだけで商売ができた。

 

問屋さんのお追従で小規模商人はバカになり、考えなくなり、売れない時代になると問屋さんからそっぽを向かれ、高い値段でしか仕入れられなくなり、郊外型スーパーのせいにしたり、行政を恨んだり、無理を言ったりする。そんなこんなで、「既得権益を守るための圧力団体」と言われたりする。

 

専門店の集まりだった商店街の特徴である、「老舗」「接客」「品揃え」はまったく価値がなくなった。「昔からやっている」といったところで、現代に生きる顧客に何の意味があるのか。接客はそもそもデパートやホテルにかなわないし、品揃え(商品知識)は、Amazonにかなうはずもない。

 

イオンにやれないことをやらなくてはダメだ。イオンは、株式上場会社で、株主資本主義で、株主の利益を最大にすることを基本的に求められている。商店街は、商店主のみでなく従業員、取引先会社、地域社会、地球環境などすべての利害関係者に配慮したステークホルダー資本主義であるべきだ。何度も言うがイオンで起業する人はいない。商店街は、商をやりたい人、商売しかできない人が自然発生的に集まってできた地域共同体だ。その役割を取り戻すべきだ。

 

魚町商店街は、リノベーションまちづくり、公共空間エリアマネジメント、SDGs商店街と日本で初めての取り組みを行い、先行者、創業者利益を獲得してきた。今後も「先進的な取組みで、地域経済課題、地球規模の環境課題の解決に向けて、来街者の利便性を高め、消費者の意識を改革し、地域コミュニティを再生させ、エリアの価値を向上させる」ことに向き合っていきたい〉

 

魚町銀天街は日本で初めて公道上にアーケードをかけた「アーケード発祥の地」。建設資金一切を商店主が拠出したという、自主自立の精神を持っています。その伝統を受け継いだ商人がそれぞれの街や地域の将来への問題意識を抱き、解決のために「自分に何ができるか」と動き出しています。本書はそんな自主自立の商人の足跡であり、未来への宣言というべき一冊。商店街で商う人、商店街に関わる人すべてに強くお奨めします。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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