インターネット通販の巨人、アマゾンが日本でECサイトを開設したのは2000年11月のこと。以来、売上高を伸ばし続け、直近2021年度は2兆5378億1000万円と、事業開始からおよそ20年で日本の小売業売上高ランキング3位にまで成長しています。
また、コロナ禍のあおりで各社の業績が低迷する中にあって、成長率も著しい。2021年度は前期比12.8%増、2020年度も売上高2兆1893億2700万円、前期比25.5%増と、コロナ禍を追い風に成長速度を速めています。
アマゾン躍進を支える三つの基本戦略
躍進するアマゾンには、その原動力となる三つの基本戦略があります。
①常に顧客中心に考える
②発明を続ける
③長期的な視野で考える
筆頭に掲げるのが顧客第一主義。1995年にアメリカでインターネット専門の書店として創業以来、地球上で最もお客様を大切にする企業になることを事業理念に掲げています。
創業者のジェフ・ベゾスは創業間もない頃、ナプキンに一つのループ図を書きました(画像出所:Amazonjobsホームーページ https://www.amazon.jobs/jp/landing_pages/about-amazon)。
そこに彼が追求したビジネスモデル集約されています。アマゾンではこれを、お客様に焦点を当てた「善の循環」のコンセプトと名づけています。
セレクション、つまり品揃えを増やすと、カスタマーエクスペリエンス(顧客の経験価値)が上がります。顧客の経験価値とは、商品やサービスを通じて得られる経験の総称で、使いやすい、楽しい、わかりやすいなど様々な経験を表わしています。単に品質や機能が高いだけでは得られず、それを使うことで喜びがなければ得られないものです。
そして、このカスタマーエクスペリエンスが上がると、トラフィック、つまり客数が増え、それに伴ってセラー(売り手)が増え、それがさらに品揃えを豊富にしていきます。このとき必要なのがロワーコストストラクチャー、つまり低コスト構造です。それがロワープライス、つまり低価格を生み出すという循環を構成しているのです。
低価格、利便性、そして迅速性。これら三つを追求することがアマゾンの顧客第一主義の本質なのです。
このとき考えたいのが、顧客が望むものはこの三つだけなのかということです。そのほかのニーズの中にこそアマゾンと争わず、お客様に喜んでもらえる事業領域があるのではないでしょうか。
三つの「や」が重なるところ
「店は客のためにある」
昭和の石田梅岩と言われた経営指導者、商業界創立者の倉本長治は、太平洋戦争後に商いが乱れた時期にすでに、顧客第一主義をこう表現し、訴え続けたことで知られています。その薫陶を受けて、日本でも多くの商人がその実現に取り組んできました。しかし今、誰もが顧客第一主義を唱える一方、形だけの顧客第一主義も少なくありません。
ベゾスはこの点について、かつて次のように発言しています。
「他社は顧客、顧客と口では言っても、結局ライバルを見て戦略を決めています。それは何も発明していないのと同じです」
どこよりも豊富な品揃えから、どこよりも便利に、どこよりも安く商品を提供するために、確かにアマゾンは顧客視点の発明を続けています。しかもそれは、長期的な視野で考えられています。単にアマゾンと同じような商品を販売しているだけにとどまっていては、アマゾンに凌駕されていくことは避けられないでしょう。
ならば、アマゾンだけがあれば私たちの暮らしは豊かになるのでしょうか? いえ、人の暮らしはそれほど単純ではありません。
①あなたがやれること
②あなたがやりたいこと
③あなたがやるべきこと
この三つの「や」が重なるところに、アマゾンにはできないことがあり、あなたが目指すべき顧客第一主義があります。「店は客のためにある」という思想は、もっと奥が深く、多様なものなのです。