日本一人口の少ない鳥取県の県庁所在地。その鳥取駅前の商店街にあるオーダーメイド万年筆専門店「万年筆博士」では、ペン軸の長さや太さ、ペン先の角度やタッチ、そして全体のバランスやフォルム、それらすべてを書き手一人ひとりに合わせた一本をつくってくれます。
そのため、製作にあたる前にはお客さんと作り手双方が納得するまでコミュニケーションをとり、書き癖、用途、筆圧、持ち方など十数項目を記録したカルテを作製します。その数は1万枚を超えるそうです。
便りとは頼り
店主であり職人の山本竜さんが毎日10時間も工房に籠って生み出す万年筆は月に12本がやっと。なぜなら、約400に及ぶ工程を重ね、1カ月以上をかけて生まれる万年筆は世界に1本しかないオリジナル商品だからです。
その魅力に魅せられ、なんと顧客の2人に1人が2本目、3本目、4本目とリピートし、そればかりか積極的に万年筆博士の素晴らしさを伝道してくれるといいます。それゆえ、広告はホームページのみながら、その魅力は世界へ広がり、今ではオーダーの半分が海外からとなっているのです。
価格は素材により5万円から35万円で、平均価格は16万円。現在、注文から引き渡しまでに13カ月を要しますが、価格を上回る価値は海外のほど愛好家をも魅了しています。
そんな山本さんの元には、全国の顧客から、親しい友にしたためたようにあたたかい手紙が全国から届きます。もちろん、それらの便りはお気に入りの万年筆博士によって記されていることは言うまでもありません。
字典によると、「便り」と「頼り」の語源は同じだそう。たしかに手書きの便りは、送る方にとっても受け取る方にとっても、気持ちを支え励ます頼りになってくれるものです。
一生ものを超えて二生ものへ
「目指すのは一生ものを超えて二生もの」
そういう山本さんの言葉のとおり、祖父や父が愛用していた1本がその孫や子によって持ち込まれることが少なくないとのこと。山本さんはそれら一つひとつを新しい使い手に合わせて調整、万年筆博士はまさに世代を超えて受け継がれていきます。
商業界ゼミナール創始者、倉本長治はかつて「商いとは未来をつくるもの」と説きました。それゆえ、そこに欺瞞は許されず、愛と真実に裏打ちされなければ本物ではないと断じたのです。
かつて近江商人は商いの要諦を「店よし 客よし 世間よし」と表現しました。異論はまったくありませんが、順番を入れ替え、一つ加えたいのです。
客よし
世間よし
店よし
未来よし
世代を超えて受け継がれるものづくりの技術と精神、そこには未来を良くしたいという意思があります。それが商圏を超えて顧客に愛され続ける最大の理由なのです。