「信実と誠実なくしては、礼儀は茶番であり芝居である」
以前、五千円札を飾っていた偉人に新渡戸稲造がいます。新渡戸は、英文に翻訳されアメリカでも多くの人に読まれた『武士道』の著者であり、冒頭の一文はそこからの引用です。
札幌農学校を卒業後、アメリカやドイツに留学、京大教授、一校校長などを歴任した教育者であり、国際連盟事務局次長として活躍しました。『武士道』は海外に日本の評価を高めるきっかけをつくった貴重な文献でもありました。
一文は「信実」という言葉から始まっています。よく使われる「真実」は客観的な間違いのない正しい事実をさすのに対して、「信実」とはまじめで偽りのない心の在り方を意味します。新渡戸は、信実や誠実が伴わなければ、どんなに礼儀を尽くしても形式としてしか受け取られないと言っています。
新聞やニュースで、しばしば製品不良などで回収を呼びかける謝罪広告を見かけることがあります。製造業者であれ販売業者であれ、不都合な「真実」がわかった以上、次にしなければならないのは「信実」と誠実を尽すこと。「真実」を極め、「信実」の旗を立てることです。
そうでなければ、どんな礼儀も茶番だと新渡戸は言います。人間が人間として生きていくかぎり、礼儀もまた形式であってはなりません。生きている限り、誰でも誤りから逃れられません。だからこそ、その後が大切だと教えられました。皆さんの仕事にも、そうしたことはありませんか。