笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「この本で紹介している化粧品は、国内外で広く流通しているものとは一線を画する。素材を厳選し、ていねいにつくっているので、それほどたくさんはつくれない。それらは、ナチュラルコスメ、オーガニックコスメ、ご当地コスメなどと呼ばれるが、本書は、人を心身から美しくするだけではなく、地域を、社会を美しくする化粧品という思いを込めて、『社会派化粧品』と名づけた」(2ページ)

 

商人には想像力が大切です。想像とは、実際には経験していない事柄などを推し量ること。商人の営みに置き換えるなら、自分ではない“お客様”の気持ち、心、ニーズを推し量り、それを叶えるようと努めること。

 

商業界創立者、倉本長治はその重要性を「客の心を心とせよ」と表現しました。お客様の心を、自分の心と同じようにしっかりと理解し、寄り添い、その思いに応えることが真の商人の務めであるということと理解しています。

 

その意味で、私には想像力がありませんでした。命を守り育む“食”には強い関心と共感を持ちますが、自身がほとんど関わりのない対象に対しては、その重要性に思い至らない拙さに、本書は気づかせてくれました。

 

対象とは化粧品。本書とはジャーナリスト、萩原健太郎さんによる『社会派化粧品』。全国各地で、その土地ならではの資源を活用し、素材を厳選し、丁寧につくられる化粧品を取材、作り手たちの物語を紹介しています。使い手の心身を美しくすることはもちろん、地域や社会をも健やかにする化粧品が芽吹き、花を咲かせていることを知りました。

 

その先駆者の一人に、生産者の顔が見える国産自然原料を特徴とする化粧品会社CRECOS(クレコス)の暮部恵子さんがいます。同社の企業理念は「大地母」。化粧品会社と書きましたが、同社のホームページにはこうあります。

 

「株式会社クレコスは単に化粧品をつくっている会社ではありません。私たちの化粧品は、いつも農業と深く結びついています。日本人に日常的に愛用されてきた『和』の植物原料にこだわる思いが生産者の思いと重なりました。おいしい食べ物と同じように母なる大地の恵みをまっすぐ肌に届けたい。そして、母から娘へ受け継がれてきた大切な『もの』や『こころ』も伝えていきたいのです。その気持ちを『大地母』という言葉に託します」

 

1993年創業の株式会社クレコスは創業者であり、現会長の暮部恵子さんの「自分の娘に、心から信頼して進められる化粧品をつくりたい」という思いから始まりました。創業前、暮部さんは働く主婦として、ある自然派化粧品の販売に携わっていました。

 

「しかし、中身を調べると、無添加を謳いながらも、あたりまえのように石油由来の成分が含まれていた。自分が納得できるもの、娘に安心して使わせるものがないなら、この手で作るしかない」(71ページ)

 

その取り組みについては、ぜひ『社会派化粧品』をお読みください。身近な一人のために最善を尽くしたとき、その先に世のためが実現します。順序は「人のため→世のため」であってこそ、その営みは広がり、続いていく熱量を持ち得るのではないでしょうか。広がり、続いていく熱量を持ち得えない「世のための営み」は、本当の「人のため」でもありません。

 

このとき大切なのが想像力。人の集積が世であり、世とは究極のところ人そのものであることを我が事として認識できる力、それが想像力ではないでしょうか。

 

本書にはクレコスのほかにも、こうした想像力に富み、そのために行動する社会派化粧品の作り手たちが登場します。公益性、時代性、そして革新性を備えた彼、彼女たちを知ることは、これからの商いを考える上で欠かせないものでしょう。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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