前著『小商いのすすめ』で、人口減少・実質マイナス成長という“縮小する時代”における商いの在り方を問い、その要諦として「身の回りの人間的な小さな問題を、自らの責任において引き受けることだけが、この苦境を乗り越える第一歩になる」という小商いの哲学を提示した著者、平川克美さんの一冊。
本書『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』のテーマは「消費」。自ら翻訳事務所を起業してがむしゃらに働き、気がつくとベンチャーの寵児と呼ばれていた平川さんですが、ベンチャーキャピタル事業の失敗で窮地に陥り、カネも人も潮が引くように遠ざかっていきました。こうした挫折からつかんだ株主資本主義の危うさを指摘するくだりはリアルです。
著者は、危うさの根源に、消費を美徳とする社会への変貌を挙げています。労働を尊いものとする価値観から、いかに稼いで、いかに消費するかが人間の価値とする社会です。労働の喜びから離れた個人が、その空虚感を埋め合わせるために消費に走り、企業も国家もそれを助長していると著者は指摘。しかし、人口減少・低成長時代の日本では、そうした価値観は破たんすると予測しています。
では、どういう消費を目指すべきか——著者は“銭湯”というキーワードを提示します。「元気な商店街にあって、シャッター通りと化した商店街にないもの——。それは、銭湯、団子屋、そしてお茶屋です。(中略)商店街の団子屋やお茶屋は、町のコミュニティ・スポットとして機能していたのです」(176ページ)
職住が隣接した町の中で、見知った顔の人たちが働き、暮らし、銭湯につかる。その落ち着いたリズミカルな暮らしが営まれる、半径3Km圏内の経済社会——こうした生き方が実はさまざまな場面で見られるようになりつつある今日、地域の生活を守り育む商人の役割も問われています。