笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

デスクワークに倦み、昔のスクラップブックをパラパラめくっていると、こんな新聞記事の切り抜きが出てきました。2015年7月31日付けの日本経済新聞、連載企画「ニッポンの産業戦後70年 識者に聞く(4)」。イオングループ名誉会長、岡田卓也さんの回想はこんな書き出しから始まります。

 

「終戦直後、闇市など非正規の商売も行われたなかで『店は客のためにある』と唱えたのが、雑誌『商業界』の主幹だった倉本長治氏だ。それから、元読売新聞記者で経営コンサルタントの渥美俊一氏。若い経営者は2人のもとに集まって小売業の勉強会をしたものだ。(中略)1950年代後半、『商業界』の主催で行った1か月間の米国視察は驚きの連続だった」

 

若き日の岡田卓也さんがアメリカで見たのは、産業化の進むチェーンストアの成長ぶりであり、そこに自らのビジョンを定めました。それは岡田さん一人のビジョンではなく、当時の多くの商業者の目標でした。

 

雑誌「商業界」がその創刊号の表紙に「The Way of American Business」とうたっていたことで明らかなように、近代的な商業を日本に確立することが、戦後日本の商人にとっての絶対的使命だと、商業界創立者、倉本長治は提唱しました。

 

創刊号の巻頭口絵は、当時の日本に存在すらしていなかったアメリカのスーパーマーケットの紹介でした(日本初のスーパーマーケットと言われる紀伊国屋創業の5年前のことです)。

 

それから70年以上がたち、日本にはさまざまなカテゴリーでチェーンストアが育ち、私たちの暮らしは豊かになりました。イオンやファーストリテイリングなど多くの日本のチェーンストアが日海外に進出し、より大きな規模、多くの店数を目指しています。その先に、その規模ゆえに実現できる消費者の豊かさがあるからでしょう。

 

私も、そのビジョンを理解します。しかし一方で、それだけが正しさだとは思いません。それは日本にチェーンストアを紹介し、その誕生と成長を見守った倉本長治も同じだったようです。次の一文にそれを見ることができます。

 

「小さな店よりも巨大店舗やチェーン組織の経営者のほうが優れているかのように思われているが、それはおそるべき誤解である。それは、時計職人より大きな機械やボイラー工のほうが優れているというような議論である。夢、間違ってはいけない。小さな愛すべき専門店の経営にも、高度の知識と技術が必要なのである。この種の店には、安い、大量だという店よりも、人間としての信、善、美がもっと大切なのである」

 

私の活動において、この一片の文章はとても大切な指針です。さて、またデスクワークに励みます。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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