笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

人の心にふれる仕事

先日、ある飲食店でいただいたキューバサンドイッチ。細長いロールパンに中身はハムとローストポーク、ピクルス、チーズを挟んで焼いて、仕上げにバターを塗ってつくるマイアミのソウルフードの一つです。

 

食べながら思い出したのは、2014年のアメリカ映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」。「アイアンマン」の監督として知られるジョン・ファヴローが10億ドルと言われるギャラを断って「アイアンマン」シリーズの監督を降り、自ら製作・監督・脚本・主演を務めた、アイアンに比べたらはるかに低予算のロードムービーです。

 

主人公は、ロサンゼルスの一流レストランの総料理長として名声を得ながらも、仕事観の違いからオーナーと衝突して店を辞め、さらには多くのフォロワーを持つレストラン評論家との論争がツイッターで炎上、職も名誉も失った料理人カール・キャスパー。すべてを失った冴えない中年バツイチ男が息子と元部下と、本当にやりたい仕事をしながらフードトラックでアメリカ大陸を横断していくという物語です。

 

心に残ったのは、ボロボロだったフードトラックの改装を手伝ってくれた男たちへ礼として、店の看板メニュー、キューバサンドを無料でふるまう場面。元妻に引き取られ、普段は別々に暮らしている息子と初めて厨房に立ち、サンドの焼き加減を教えながら、相次ぐ注文にこたえているときの父子のやりとりです。

 

「(サンドが)焦げている」と、カールが焼き過ぎを指摘すると、「どうせタダだよ」と息子が反論します。すると、カールは息子を厨房の外に連れ出し、こう続けました。

 

「よく考えろ、料理は退屈か?
パパにとっちゃ、人生最高の喜びだ。
パパは立派な人間じゃない。
いい夫でも、いい父親でもない。
だが、料理は上手い。
お前にそれを伝えたいんだ。
お客さんが笑顔になると、
パパも元気になる。
お前もきっとそうだ」
「はい、シェフ」
「あのサンド、出すか?」
「出しません」
「さすが俺の息子だ」

 

「料理に必要なのは人の心に触れること」というポリシーを持つ主人公にとって、この世でいちばん幸せなことは、自分が一生懸命つくったものを人に味わってもらうこと。こうした仕事観こそ私たちが大切にすべきもの、これが本作で彼がもっとも伝えたかったことでした。

 

「アイアンマン」で一躍注目され、その続編では酷評されたジョン・ファヴローが、この低予算自主制作映画で彼本来の輝きを取り戻したことと、本作のストーリーが重なります。

 

商いも同じように、大切なのは人の心に触れることです。キューバサンドをほおばりながら、そんなことを考えた映画でした。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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