店は客のためにある――商業界創立者、倉本長治が唱えた一言は、いまも多くの商業者の理念として継承されていますが、「客のため」とは何を指すのでしょうか。あらためてそんなことを考えさせてくれる一冊があります。
ス-パーマーケットが安さを競う納豆や豆腐の価格について考えたことはありますか。原材料や飼料など原価は高騰しているのに、なぜあんなに安いのでしょうか。
また、「同じような商品なら、安いものをお客さんは望んでいる」と思い込んでいませんか。確かに、そうした商材があることは否定しません。しかし、「同じような商品」であることを隠れ蓑に、命をつなぐ源である「食品」も安さ最優先でよいのでしょうか。
「安い食品を求めすぎると、回りまわって消費者にとって不利益が生じることもある」という、著者の山本謙治さんのメッセージは明確です。山本さんは、農産物流通コンサルタントとして多くの現場を踏む人物。佳い食をつくる生産者や、佳い食を知りたいと思う企業や生活者のサポートに取り組んでいます。
本書では、納豆・豆腐、たまごをはじめ、弁当、ファストフード、ハム・ソーセージ、惣菜、調味料といった日常なじみ深い食品の製造現場を取材。その安さの裏側を明らかにしています。
「消費者がなんとなく『この料理には○○が使われているはず』という前提でいる隙をついて、代用品で味を作り、安くしていることが問題だと思う。『なぜ? 消費者が食べたいけれども、普通に作ったら高くなってしまうものを、安く提供できるからいいじゃないか』という人がいるかもしれない。(中略)けれども、その違いは消費者に伝えられないままなのだ」(121ページ)
商人とは本来、自らが扱う商品を深く知り、その中から「客のため」になるものの価値を伝える存在です。そのとき「客のため」になる商品とは、商品知識を持たないお客様の望むもののことではありません。
その分野のプロとしての知識に基づき選び抜かれた「客にとって良い」ものでなければならなりません。お客様は、そのプロの目利きに対してお金を支払うのですから。