笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

その人やその物に感じられる気高さや上品さ、これを「品格」と言います。

 

品格ある人がいるように、店にも「品格」のある店があります。そして品格ある「店」には、必ず「品格」ある人がいます。「美しく誇り高く生きるための43の学び」という副題を持つ一冊『品格の教科書』の著者は、そんな品格ある商人です。

 

 

著者の山本由紀子さんは創業130年超、岐阜の呉服店の4代目。呉服店の以前から営んでいた料理旅館から数えると200年超の老舗です。山本さんは幼い頃には商いにいそしむ両親に代わり祖母に躾けられ、学生時代は京都の親戚宅に身を寄せ、「京都の生き字引」と呼ばれていた女性を師匠として日本の“伝灯”を学びました。

 

伝灯とは仏語で、今では伝統と表現されていますが、師から弟子へ仏の教えを絶やさずに伝えること。衆生の心の闇を照らし、明るく導くところから、仏法を灯火にたとえていう言葉です。その本質は「やり方」ではなく、なぜそうするのかという人としての「あり方」にあるというのが本書に通底する著者の思想です。

 

〈作法は形ばかり追うと、とても堅苦しく、社会の変化にも合わなくなります。(中略)大切なのは、相手の方に失礼にならないかを考えた上で、その場の雰囲気を優先することでしょう。作法や所作は、先人の経験や知恵によって培われた最善の方法です。それを学ぶことで品格を手に入れられれば、人生の質が高まり、揺るぎない「あり方」を確立できます。それは時代や社会が変わっても不変です。〉(本書8ページ)

 

じつは、こうした「あり方」を大切にする生き方こそ、商人としての著者の商いの根幹であり、父や祖父という代々の当主から受け継いできたものでした。呉服という市場として見れば衰退する環境にあり、商う立地としては人口減少と高齢化に直面しながらも、多くの顧客に愛され続ける理由がそこにあるのです。

 

〈店を守るだけなら商品アイテムを増やし何でも屋になれば良いことです。しかし、着物という文化を伝えていく使命があります。「ならばいままで以上に着物に特化してより専門化する」として、父は出店する道を選びました。「変えてはいけないもの」は、店を継続させることではなく、店を大きくすることでもなく、「着物という文化を伝えていく」という使命感でした。〉(本書140ページ)

 

〈私の祖父は、戦後の混乱期にも「闇市」には絶対に手を出しませんでした。そこでは物のない時代に乗じて、古着を法外な値段で売って暴利を貪る業者が店を大きくしていました。逆に、品薄な当店は大変な苦境に立たされました。それでも、祖父は目先の利益よりも正しい商売に徹し、お客様の信用を重ねていきました。苦しくてもまっとうな努力のプロセスは、強固な信頼で結ばれたお客様と良い社員を得て、確実に店を強くしました。〉(本書163ページ)

 

結果を出し続ける人を「プロ」といいますが、それは「プロセス」を大切に踏み続けてきた人だと著者。地の下にあって見えない根が張ってこそ、結果という果実を得られるといいます。本書の主題「品格」とはまさに根であり、プロセス。それは商いにとっても同じように大切だと教えてくれる一冊です。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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