あなたがいくら素晴らしい事業理念を持ち、お客様から共感を寄せられようと、それだけで店や企業は成り立ちません。共感を現金化できる商品・サービスがなければ、売上も利益も生まれないからです。商人の誠実さと人気は売上で証明され、商人の知恵の深さと信頼は利益によってのみ測れるものです。
このとき欠かせないのが、哲学が込められ、理念が表現された商品・サービスです。そこには、お客様に伝えたい価値が込められており、お客様もそれを誰かに伝えたくなるような豊かな物語性が込められています。
他の店や企業も扱っているような商品・サービスなら、お客様はわざわざあなたのところで買う必要も理由もありません。最も安く、便利に、早く入手できるところが選ばれるだけです。
街なかの商店街から郊外のショッピングセンターへ、そしてネットショッピングへとお客様は買う場所を移していきました。そこは資本力や企業規模がものを言う領域です。無策で近づいてはなりません。
それよりも、あなたの哲学・理念を込めた物語性豊かな商品をつくることに今から取り組みましょう。いくつもいりません。たった一つでいいのです。そのために三つの質問を用意しました。
①お客様をたった一人だけ選ぶとしたら?
あなたの店や企業にはおそらく様々な属性のお客様がいらっしゃることでしょう。年齢、性別、居住地、職業、役職、年収、趣味、特技、価値観、家族構成、生い立ち、休日の過ごし方、ライフスタイルなど、じつに多種多様です。
仮に、売上をさらに上げようと、こうしたお客様すべてが満足してくれるような品揃えをしたらどうなるでしょうか。狙いどおり売上が上がる? いいえ、一人ひとりのお客様の満足度は下がり、あなたの店や企業はお客様の記憶から消えていきます。すべてを採ろうとすると、すべてを失うでしょう。
現在お付き合いのあるお客様の中から、あなたがこれからもずっと役に立ちたいと願い、喜んでもらいたいと思うお客様を一人選んでください。「えっ、一人だけ?」とあなたは驚くかもしれません。そう、一人だけです。
大丈夫です。その一人をはっきりさせればさせるほど、あなたの店や企業の理念は伝えたい人に伝わり、商品・サービスは語らずにはいられない物語性を持ちます。
②お客様の困っていることは何か?
どんなお客様を選びましたか? 次にするのは、その人がどんなことに困り、悩み、解決したいと願っているかを調べることです。不満、不便、不足、不都合、不安といった“不”の感情を見つけましょう。それ解消する機能を商品・サービスに込めましょう。このとき、それがあなたの哲学・理念から逸れてはなりません。
では、お客様の“不”はどのように調べるのでしょうか。story-rich productという青い鳥は競合店や業界常識でなく、お客様一人ひとりの心の中にこそ棲んでいます。お客様から聞くのです。売上を生んでくれるのは商品・サービスではありません。お客様の「買いたい」と思う感情であり、「買う」という行為です。
そのために前の質問で、私たちはお客様をたった一人だけ選びました。その人に聞くのです。聞くといっても、お客様自身もなんとなく“不”の感情を抱いているだけで、はっきりと認識していない場合がほとんどです。だから一人のお客様の行動を観察し、ライフスタイルを研究し、創造することが必要です。
③取扱商品を特定分野に絞り込むなら?
こうして特定したお客様の“不”を、どのような商品・サービスまたは事業分野で解決することが哲学・理念に適い、得意であり、効果を最大化できるでしょうか? つまり、あなたがやりたいこと(哲学・理念)を軸に、やるべきこと(お客様の“不”の解消)を絞り込み、やれること(自社・自店の得意領域)を決めるのです。
「うちは仕入れ販売だから、うちにしかない物語性豊かな商品なんてない」という、できない理由を聞くことも少なくありません。しかし、商品・サービスというのは単品だけで完結するものでも、多様化する価値観を満たすものではありません。
特定分野に商売を絞り込み、品揃えの深さ極め、幅を少しずつ広げていくのです。このとき、そこには誰かに伝えたくなるような物語性と価値が宿るでしょう。
やりたいこと、やるべきこと、やれること――物語性豊かな商品はこれら三つの「や」の重なったところで必ず見つかるでしょう。その一品があなたの哲学・理念をお客様に雄弁に語ってくれます。そして、それを聞いたお客様は、ほかの誰かに伝えずにはいられなくなります。
本当のクチコミとは、こうした営みからのみ生まれるのです。