ある本を探そうと、子ども部屋の本棚を目で追っていると、少しくたくたになった一冊がすぐに見つかりました。A4変型判、1400ページほどで3キロ近いその本は、およそ20年前、長男の小学校進学祝いとして、ある人物から贈られた大切な一冊なのです。表紙裏には、彼から長男への手紙が今も大切に貼られています。押し花を閉じ込んだ一筆箋に躍る彼の筆跡を見ると、彼との思い出が鮮明によみがえります。
長男、そして次男に読み継がれた一冊は表紙が取れるたびにテープで丁寧に補修され、今も本棚の一等席にいます。『まんがこども大百科』と題されたそれには、動植物、地球や宇宙・気象、科学や医学、地理や歴史、政治や経済などあらゆる分野の知恵や調べ方、学び方が絵や写真、漫画や文章でわかりやすく解説されています。
二人の息子とも、何か疑問を持つたびに本を開き、ときには退屈しのぎにまた開くという子ども時代を過ごしました。そうした繰り返しでボロボロになったこの本が彼らの知識に幅と深みを与え、知的好奇心を養ったことは疑いようがありません。その後、長男は医療者の道を進み、次男も科学の分野で学んでいるのも、この本に負うところが少なくないと思っています。
贈ってくださったのは、金子哲雄さん。2012年の今日、10月2日、41歳の若さで逝去された流通ジャーナリストです。フットワーク軽く現場を駆け回り、取材の視点は常に生活者に向けられていました。難しいことをわかりやすく、抽象的なことを具体的に表現し、雑誌やテレビで活躍していたことを覚えている人もいらっしゃるでしょう。
彼とは日本全国を、時には海外を取材で何度となく共にしました。彼は取材を大切にする人でした。だから彼亡き後も、私は取材において現場をとても大切に思っています。それは彼が教えてくれたこと。彼の分も一生懸命、取材に当たりたいと思います。
取材をベースにして書き上げた拙著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』を彼にも読んでほしかった。それは叶いませんが、取材に赴く折に、今も彼を思い出します。