笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「わざわざ商品評論誌や消費者雑誌を買って読む人よりは、カタログを手にとる人のほうが圧倒的に多いのだから、カタログという“小売店”がジャーナリズム化していけば、消費者への問題提起力はとても大きい。商品を是々非々で批評・批判していくのが“商品ジャーナリズム”(たとえば『暮しの手帖』)なら、おのれが是とした商品の是とした理由を解説しながら販売していく方法を“小売ジャーナリズム”と呼んでもかまわないのではないか。“販売する”は“報道する”に重なるのではないか」

 

この文章は、通販情報誌「通販生活」を営むカタログハウス創業者、斎藤駿さんの小売ジャーナリズム宣言(『なぜ通販で買うのですか』より)。いつも注目する情報誌であり、企業であり、商人です。

 

 

以前、東京・新宿にあるカタログハウスの直営店「カタログハウスの店」で、原発被害で復興の遅れる福島を、商品販売を通じて応援するショップ「本日!福島」が大きく展開されていたときのこと。買い求めたのは、福島・楢葉町の住民の皆さんによる布ぞうり「NARAHATO」。避難先の会津の仮設住宅で、一つひとつ手づくりされている品です。

 

このようにカタログハウスの品揃えには、商人としての思想、主張があります。だから、私はそれに共感し、「商品を買う」という行為を通して、カタログハウスの考えを肯定するのです。その思想、主張は「通販生活3つの心がけ」として明文化されています。

 

1.「価格」より「品質」で決めていく

あまり信ぴょう性のない「当社価格」を提示して、「さあ、その5割引きだい、さらに今回はおまけもつけちゃう!」といった思わせぶりな売り方は大きらい。商品は一にも二にも品質が大切。高い品質技術を所有するメーカーさんと組んで、つねに最新の性能、永持ちする商品を提供していきたい。

 

2.ちょっぴりディファレント

みんなと同じ商品も好きだけど、ちょっぴりディファレントな(違っている)商品はもっと好き。そんな商品を提案しながら、戦争反対、原発反対も販売、いや問題提起していく、ちょっぴりディファレントな企業でありつづけたい。買い物は平和な社会でなければ成り立たないから。

 

3.買い物ついでに社会貢献

品質のいいランドセルを販売することも大切だけど、「ランドセルを買えない1年生」がどうしたらランドセルをしょって登校できるかはもっと大切。国内のランドセルを買えない子どもたちから、戦争で傷ついた外国の子どもたちまで、縁あってお知り合いになった消費者の皆さんと連携して、「困っている子どもたち」を少しでも手助けしていきたい。

 

 

斎藤さんの提唱する“小売ジャーナリズム”に私が共感するのは、それが小売りの自己表現にほかならないからです。それぞれの小売業が、それぞれの自己表現を(それは「人間表現」と言ってもいいものです)で競い合い、その営みこそ消費者が商品を選ぶ上での目安となる――そういう役割を果たすのが商人の役割ではないでしょうか。

 

斎藤さんはこう続けます。

 

「現代の小売企業は、おのれの人間を出さないできたから、『信じられるのは企業じゃなくて価格だよ、おたくはいくら引いてくれるの?』になってしまったのだ。小売の人間をきちんと見せられたとき、そんな人間は嫌いだよと反発する消費者は当然、離れていく。面白そうな人間だからしばらくつき合ってやるかと考える消費者だけが残っていく。それが当たり前で、そもそも万人に愛される企業なんてこの世には存在しない。あったら気持ち悪い」

 

商業はジャーナリズムであり、商人はジャーナリストであるべきです。この夏、福島・楢葉町の布ぞうりをルームシューズとして履きながら思ったことは、おおむねそんなところです。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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