笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

現在、日本の食品ロスは600万t。国民一人当たりでは1日約130g、年間約47kgを私たちは捨てています。その54%が事業系食品ロスであり、食品小売業は全体の11%を占める存在です。

 

 

事業系食品ロスが発生する要因にはどんなものがあるでしょうか。その一つに食品小売業の「1/3ルール」があります。賞味期間を1/3を超えたものは入荷せず、2/3を超えたものは販売しないという商習慣です。賞味期限と消費期限の違いについて、私たちの不理解もあるでしょう。

 

このほかにも、販売機会ロスを恐れた大量発注や大量製造があります。その象徴としてニュースにもなったのが、2月の節分行事となった「恵方巻き」をめぐる動きです。

 

 

2018年、恵方巻き商戦を前にヤマダストアー(兵庫県・揖保郡)が打った、恵方巻きの大量製造・大量廃棄の自粛する一枚のチラシ「もうやめにしよう」が全国の生活者からの反響を集めたことを憶えている人も少なくないでしょう。結果、ヤマダストアーでは昨年と同量を製造し、食品ロスを出さずに売り切ることに成功しています。

 

 

先日、こうした食品ロス削減に取り組む一人の商人を訪ねました。売場面積150坪のスーパーマーケット、埼玉県草加市の「生鮮スーパーゼンエー」経営者の植田全紀さんとは以前から食の勉強会で学ぶ仲間です。

 

「フードリカバリーを進めている」という連絡を彼から久しぶりに受けたのは、この6月のこと。まだ食べられるのにさまざまな理由で廃棄されそうな食品を回収して販売するフードリカバリープロジェクトの狙いを「流通から外れた商品を、もう一度流通に戻すことで食ロス削減に貢献したい」と植田さんは語ります。

 

「しかし」と彼は言葉を続けます。「お客様に十分に支持していただけているとは、まだ言えません。意義ある取り組みとして共感してくださる人は少なくないのですが……」。

 

売場を見ると、規格外の野菜、賞味期限の迫多商品、季節外れの商品、食品工場からのアウトレット商品など、流通から外れた商品が陳列されています。これらをお客様に理解いただき、購入していただき、結果として食品ロスへが減り、社会に役立つことが植田さんの目指している商いです。しかし、「なかなか結果につながらない」と植田さんは壁にぶつかっていました。

 

 

〈日本経済はこれまで、人口増加を前提に成長を遂げてきました。ビジネスや商いの成功法則も例に漏れません。昨日よりも今日のほうが、今日よりも明日のほうが市場規模の拡大する時代にあって、ほとんどのビジネスが大量生産、大量流通、大量消費、そして大量廃棄を前提にしてきました。

 

しかし、このままでは地球環境が持たないことに、多くの生活者はすでに気づいています。頻繁する天候不順や自然災害のたびに、大量に廃棄され続けている食品ロスのニュースに触れるたびに、これまでのルールのままでは、今までの生活が続けられないと感じているのです。〉

 

以上は、拙著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』で指摘したことです。このことを取り消すつもりはありません。生活者は社会のために、未来になるために、という社会的に意義ある行動をしたいと願っていることは事実です。

 

 

けれども、それだけで人は動きません。そこに楽しさやおいしさが添えられたとき、お客様はレジまで商品を運んでくれるのです。モノからコトへ、コトからイミ(意味)へ、イミからイギ(意義)へと購買の理由は移りつつあります。しかし、意義だけで人は動かないこともまた事実です。

 

たとえば、下ごしらえされた大根の煮物。冬場のコンビでは、おでんの具として人気の商品です。しかし、売場に並べられるそれは大量。安さはうたわれていても、この食材をどのように調理したら、おいしく、たのしく食べられるかという提案はありません。

 

「どんなに正しい商いでも、一方的な価値観の押しつけだけでは共感は得られません。まずは、こうした商品をおいしく、楽しく食べるための提案をしてみてはどうですか。その前提となるのは清潔感です。店が古いことと、汚いことはまったく別次元の話です。どんなに古くても丁寧に掃除されている店は輝いています。毎日の掃除から始めてみましょう」

 

 

これが私から彼への提案でした。また訪れる約束をして別れた後、店を振り返り、思いました。店の前に立って、お客様から店がどう見えるかを彼にも確認してもらいたい、と。自分の心をお客様の心に寄り添わせたとき、解決策は見つかるはずです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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