「日本のワインをフランスに売り込むようなもの」
「アメリカ人が銀座で寿司屋を開くようなもの」
世界の一流メンズブランドが集まり、ニューヨークを代表するショッピング街として名高いマディソン・アベニューに開店するにあたって、こんなふうに疑問視されたのが2012年のことでした。そうした揶揄をはねのけ、高い品質と優れたコストパフォーマンスによりニューヨーカーから絶大な支持を集め続けた日本のシャツ専門店があります。
成功要因は本物であること。世界のメンズファッション誌の最高峰「GQ」ウェブ版の特集「ベスト白シャツ」トップ10では、欧米の有名ブランドを押さえてトップに掲載れたことからも、それが証明されています。鎌倉の住宅街、コンビニの2階。夫婦二人で創業した小さな本物の店「メーカーズシャツ鎌倉」の話です。
では、「本物」とは何でしょうか? その詳細は新著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』に譲りますが、創業者の貞末良雄さんはヴァンジャケットをはじめ長くアパレル業界に携わり、ファッションビジネスの裏側も熟知している商人。その商いの流儀は業界の悪しき慣習から最も遠いところにあります。ひと言で表現するなら、愚直なまでの誠実さと言うべきでしょう。
「量はいずれ折り返し点(限界)がくるが、質には限界がない。永遠なる進化(深化)が可能であり、商いを続ける以上、商品も経営も進化なくしては成立しない。質を軽視し、売上や儲けに奔走するようでは、いずれ顧客から見放される。シンプルにストレートに顧客志向を追求する中に明日があると考える」という言葉こそ、メーカーズシャツ鎌倉の創業以来の志です。
創業の志は2020年5月、長女である奈名子さんに引き継がれました。今あるものはいつか滅びる運命にあり、常にいものを提供し続けるためには進化し続けなければならない――そのことを、創業時から貞末夫妻と共に事業を支え続けてきた新社長は目のあたりにしてきました。真っ正直な商人道はこれからも続いていくでしょう。