「自分が変わっているのではなくて、世の中のほうがおかしい。これまで経済効率優先で日本が捨ててきたものを、あらためて拾っていくのが私の商いですし、お客様への約束です」
「変わり者」と言われながらも、熊本県菊池市で米づくりに取り組み、地元の自然栽培農産物やそれらを原料としたオリジナル商品を手掛ける自然食品専門店「自然派きくち村」店主、渡辺義文さんの言葉です。酒販店で修業を終えて実家に戻った渡辺さんを待っていたのは、酒業界を揺さぶる変革の嵐でした。
「当時はいかに薄利で売るかが仕事の中心でした。大手ほど仕入れ条件が恵まれない中で、納品先からは価格を叩かれ、仕入先にも無理を言う。価格競争の先には誰かが苦しむ未来しかありません。そんな商売に希望を見いだせずにいました」。2006年の酒販免許完全自由化をとどめに、業界を超えての激しい価格競争起こり、地方の小さな店も無縁ではいられませんでした。
そんな折、知人に誘われ環境問題の講演会に参加してみると、自分の知らない世界を目のあたりにしました。日本の食料自給率が極端に低いこと、それなのに食料廃棄率は高まる一方であること、さらに世界では各地で深刻な食糧不足で餓死者が続出している現実を渡辺さんは知ったのです。
そこから渡辺さんの商いは変わりました。詳細は新著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』に譲りますが、人はそれを「変わり者」と言うのです。現在、渡辺商店には600品目を超えるオリジナル商品があり、店舗向かいにある生産拠点「本物のアレ研究所」では、本物をめざして新しい商品開発が続けられています。
そうした商品は、インターネットショップ「自然派きくち村」を通じて全国2万人超のファン客に支持され、客単価は1万円ほどにもなります。そこには、誰かに負担を強いるような価格競争などありません。
「あなたがこの世で見たいと思う変化に、あなた自身がなりなさい」とは、インド独立の父、ガンジーが遺した言葉として知られています。正しい食を未来へつなぐ商人、渡辺さんを表現するなら、これが最もふさわしいでしょう。