笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

すべては一粒の種から

私には、尊敬する二人の雑誌出版人がいます。

一人は、雑誌を通じて商人を愛し、育むことに生涯を掛けた人、「商業界」創刊者、倉本長治。もう一人は、雑誌を通じて市井の人たちの暮らしを豊かにすることに努めた「暮しの手帖」創刊者、花森安治。じつは、この両誌は共に1948年に創刊、日本が敗戦から立ち上がろうと動き出した時代でした。

花森安治は1949年、「若い人に」という文章を遺しています。その一部を紹介しましょう。

「美しくありたいとねがうのは、女、男をとわず、生きているかぎり、これは人間の本能です。美しいということは、こころにしても、体にしても、幸せなことです。幸せになりたいとねがうことを、恥ずかしがらないように」

花森は、生きる歓びとは日々の暮らしの中にこそあると主張し、その実現に欠かせない情報を「暮しの手帖」の中に込めました。そのために、表紙を自ら描き、デザインし、一片の文章、一枚の写真にもこだわり抜いたのです。

同じころ、倉本は商人に対して次のような文章を遺しています。

「一人一人のお客のために誠実であり、親切であるということは、樹々がその枝一本一本に美しい花を咲かせるようなものである。いずれは実が、その花の跡に成熟し、その繁昌の果実の芯には必ず儲けという種子が含まれている。そして、その種子からまた、芽が出て樹に育ち、また花を咲かせねばならぬのが、自然の法則なのである。もちろん、すべての花が実を結ばず、結んだ果実が雨風に打たれて、成熟せずに終ることもあるけれど、がっかりすることはない。いかなる場合にも、いくらかの実は結び、一つの実から、いずれは無数の花や実が見られるからなのである。信念を持つことだ。一粒の種子さえあれば、樹々も再び生えるのである」

二人に共通するもの、それはその対象とする読者への深い愛情です。そして、伝えずにはいられないという、燃えるような理念です。雑誌編集者の仕事とは、核となる理念を雑誌に植え付け、または受け継ぎ、時代と寄り添いながらも、その火を絶やさぬ努力をすることです。

この思考はすべての営みに共通します。それゆえ、この二人は変わることなく目指すべき巨人なのです。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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