企業数の99%以上、従業者数でも約7割を数え、日本経済の屋台骨を支える中小企業。その経営者の高齢化が進んでいます。日本政策金融公庫総合研究所によると、経営者の平均年齢は2023年1月時点で62.33歳。60歳以上が58%、70歳以上が30.9%を占めるといいます。彼らの後を継ぐ者はいるのでしょうか。
後継者難で増える「廃業」という国難
中小企業庁によると、2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の3分の1)が後継者未定といいます。70歳は事業者の平均引退年齢とされ、このまま127万社が休廃業・倒産した場合、約650万人の雇用が失われ、約22兆円ものGDPが消失する。「国難」といっていいでしょう。
日本政策金融公庫総合研究所の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」によると、後継者が決まっていて後継者本人も承諾している企業は10.5%にとどまります。後継者が決まっていない企業は20%、廃業を予定する企業はなんと57.4%に上るのです。
廃業を予定する企業の廃業理由は、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」が45.2%と最も多く、「事業に将来性がない」が22.1%と続きます。一方、「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」を合わせた後継者難による廃業も28.4%見られます。
親族や従業員への承継ではなく、第三者に事業を引き継ぐ「第三者承継」はどうでしょうか。後継者が決まっていない企業のうち、「現在売却を具体的に検討している」が2.9%、「事業を継続させるためなら売却してもよい」が 39.4%。これら事業売却の意思を持つ企業は2019年調査より7.7ポイント減少しています。
しかし、こんな例もあります。
他人が蘇らせた本物のかまぼこ
福岡県みやま市にある「吉開のかまぼこ」は明治23年創業。高級魚であるエソを原料に、昆布だし、みりん、自然海水塩だけでつくる「古式かまぼこ」を販売します。
市場に流通するほとんどのかまぼこは加工段階でリン酸塩を、製造段階で保存料、澱粉や卵白を添加することで原価の低減、製造の省力化・短期化、流通の長期化を図りますが、同店のそれは安全安心と本来の味を極めた完全無添加。三代目の吉開喜代次さんが約8年の試行錯誤の末につくりました。そこには、お客様に安心して召し上がってほしいという思いが込められています。
しかし2018年6月、後継者不在によって休業を余儀なくされます。
その思いを継いだのが、後に四代目となる林田茉優さんでした。大学時代、独自の技術を持ち、黒字ながらも後継者不在のために廃業せざるを得ない企業のニュースにふれ、それを機にゼミのテーマを後継者問題に定め、支援活動を始めました。そして吉開さんと出会います。
引き継ぎ手を探すものの難航するうちに、2021年6月に会社は解散。それでも「かまぼこをつくりながら死ねたら幸せだ」という吉開さんの言葉に心打たれ、林田さんは自らも出資してかまぼこづくりを再開させます。
すると、林田さんの思いに共鳴する会社が現れ、2021年12月に全株式を取得。林田さんは社長として事業を委ねられ、新生なった吉開のかまぼこ味を広めるべく、さらに精力的に活動。先代から引き継いだ製法と「健康社会に貢献する」という理念を引き継ぎ、発展に努めています。冒頭の写真は、広島県福山市で本物の食品だけを売る店「ナチュラルマーケットIKO」で店頭試食販売をしている一枚です。
さて、こうした事業承継問題のみならず、本年も商業を取り巻く環境は流動的かつ不透明です。多様化・個別化する消費者ニーズはどこへ向かい、待ったなしの物流問題はどのような影響を及ぼすのでしょうか。一つひとつの変化が私たちにも対応を求めてくるでしょう。
そのとき、事業を支える三つの柱があります。なんとしても「やりたい」という情熱、どうしても「やるべき」という使命感、そして事業として「やれる」ためのリソース。これら三つの「や」が揃ったとき事業は強さを持ち、危機を乗り越えられます。
とりわけ前者二つの「や」が強ければ強いほど、三番目の「や」はおのずと整っていくものです。吉開のかまぼこに、それをあらためて確認させてもらえました。あなたの三つの「や」はいかがでしょうか。