「『商いの原点はお客様があってこそ』と、私も両親から幼い頃からよく言われました」
こうメッセージをくださったのは、東急会長、日本小売業協会会長の野本弘文さん。ご縁をいただき、拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』を献本したところ、ご多用なお立場ながらさっそく頂戴した礼状に書かれていました。
福岡県行橋市の商店街で酒屋と青果店を営む家に生まれ育った野本さんは、かつて日本経済新聞コラム「交遊抄」で一人の幼なじみとの交遊についてふれ、次のように書いています。
「彼とは生い立ちが似ている。(中略)彼も商家の子として育ってきただけに、お客様や従業員の視点でモノを見ることが自然と身に付いていた。また彼には、夢を諦めない忍耐と人の言葉に耳を傾ける素直さがあった」
この「彼」とは、同じ商店街で陶器と茶の販売を営む店の子として生まれ育ち、後に惣菜店「むすんでひらいて」を起業したMHホールディングスの原田政照さん。今では九州にとどまらず全国各地に約400店を展開しています。
このように原田さんについて語っていますが、「お客様や従業員の視点でモノを見ること」「夢を諦めない忍耐と人の言葉に耳を傾ける素直さ」は、同じ育ちをした野本さんにも備わったもの。そして、こう続けています。
「これらの重要性は、私がいつも社員に話していることだ。そんな彼だからこそ、一代で大きく事業の花を咲かせることができたのだろう」
野本さんの竹馬の友、原田さんは拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の主人公、倉本長治の教えをまとめた商人訓「商売十訓」の実践者。常に経営の羅針盤とされてきた商人です。商売十訓とは次の10篇の文章から成り、じつは拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』はそれを柱に据えた書籍です。
一、損得より先きに善悪を考えよう
一、創意を尊びつつ良い事は真似ろ
一、お客に有利な商いを毎日続けよ
一、愛と真実で適正利潤を確保せよ
一、欠損は社会の為にも不善と悟れ
一、お互いに知恵と力を合せて働け
一、店の発展を社会の幸福と信ぜよ
一、公正で公平な社会的活動を行え
一、文化のために経営を合理化せよ
一、正しく生きる商人に誇りを持て
ところで、野本さんご自身が大事にされている判断基準は何でしょうか。以前、ビジネス誌「Forbes」日本版で次のように語っています。
「大きく三つあります。一つめは世のため人のためになるか、つまり、こういうものがあったらいいよね、と思えるか。二つめは面白いか、面白くないか。楽しそうかどうかも重要な判断基準のひとつです。最後はやはり儲かるかどうか。儲かるというと語弊がありますが、要するに持続可能かどうかということですね。事業というのは基本的に世の中に必要とされるものでないといけません。必要なものである以上、継続的に利益を生み出しながら事業を支えていかなくてはならない。ですから、ここがしっかりしているかどうかが重要な判断基準になるのではないでしょうか」
こうしたお考えをお持ちの野本さんが、拙著をどのように読んでくださるか。今度お会いできるときにご感想をうかがえることを願っております。