笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み
単発の仕事ばかりで次につながりません。継続的に仕事を獲得するためにどのような工夫をするべきでしょうか?

 

「顧客生涯価値」という経営用語がります。一人の顧客が生涯にわたってもたらしてくれる価値の合計を表わしており、価値とは顧客を獲得・維持するためのコストと、顧客の購買額との差額を示しています。

 

また、「1:5の法則」というマーケティング用語があります。新規客を獲得するには既存客の5倍のコストがかかるというもので、獲得コストが高い割に利益率が低い新規客の獲得よりも、既存客の維持が重要という法則です。

 

さらに、「5:25の法則」。顧客の離脱率を5%改善すれば利益が最低でも25%以上改善するという理論で、アメリカの大手コンサルティング会社の著名ディレクターが調査の末に導きだしたものです。

 

これらは、既存客に繰り返して愛顧いただくほうが「得」なことを示していますが、そのメリットはこうした損得勘定だけにあるのではありません。一人のお客様に頼りにしてもらい、それに応えようと努力す——そういう誠実な営みの中にこそ仕事の喜びはあり、顧客との継続的な取引は信頼関係を育む先に生まれます。

 

仕事を「獲得」と表現するあなたはおそらく、お客様の満足よりも自分の業績を優先させているのかもしれません。しかし、あなたの業績のために、買ってくださるお客様などいません。

 

今日、残念ながらその店はありませんが、「十円のお客様を大切にしてほしい」と毎朝の朝礼で従業員に説き続けた商人がいました。「千円のお客様も大切だが、十円のお客様100人に喜んでいただければ、それだけ売る側の喜びは大きくなる」と、同店では葱1本、卵1個、油揚げ1枚のお客様も分け隔てなく大切にしたといいます。

 

この店には油1合を毎朝買いに来るおばあさんがいました。いつも一人の女性店員が注文のたびに油を計って対応していましたが、どうしても待たせしてしまうし、おばあさんも店の手間に対して申し訳なさそうにしているのを申し訳なく思っていました。

 

そこで店員はおばあさんに気を遣わせまいと、前日の営業後に油を計っておき、朝はこれまで以上に会話を交わしてからお渡しするようにしたのです。その店員にはほかにも多くの愛顧客がおり、彼ら彼女たちとの楽しげな会話が絶えなかったといいます。

 

ある朝、おばあさんが来店すると、その店員がいません。聞くと、結婚を機に退職し、明朝には故郷に帰るとのこと。翌朝、おばあさんは開店前にやってきて、夜なべして編んだというレースの編み物を手に、「結婚のお祝いに渡してほしい。健康に気をつけるようにと伝えてください」と念を押して帰っていったそうです。

 

同店には彼女以外にもこうしたエピソードを持つ従業員が多く、それこそが多くのお客様が繰り返し訪れる繁盛をもたらしていました。静岡県熱海市で創業した八百半商店。後に他社に先駆けて海外進出を果たすものの、志半ばで経営破綻し、イオンの支援によりマックスバリュ東海として事業を続けています。

 

もし、購入金額の低い顧客だからとぞんざいに接していたら、こうしたお客様と店員との心あたたまる物語は生まれたでしょうか。商人の道、それは誠実さを尽くす人間の道にほかなりません。継続的な付き合いは、その結果なのです。

 

#お悩みへのアドバイス
商人と客とが人として
温かいものを与えあおうと
誠実を尽くす
その営みを商いという

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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