笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「郡部で暮らしている両親が日々の買物に困っていると知ったことがきっかけでした」と振り返るのは、移動スーパー「とくし丸」創業者の住友達也さん。「80歳を過ぎてもお袋は買物のために車の運転をしていました。スーパーまでは数キロあり、気軽に歩いて行くというわけにはいかない。同じように困っている人はさらに増えるでしょう」という予測とおり、いわゆる「買物難民」は増え続け、日々の暮らしを脅かしています。

 

 

地域のスーパーマーケットを拠点とする販売パートナーによって、冷蔵庫付きの軽トラックに積み込まれるのは、生鮮食品や加工食品、日用雑貨など暮らしを支える品々。全国47都道府県に約1200台が稼働し、路地裏の細い道にまで毛細血管のようにめぐり、すべてのお客様と顔を合わせ、視線を交わし、会話を通じて販売しています。そこには売る者、買う者双方の笑顔と人間どうしの心のつながりがあります。

 

拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』では、こうした住友さんの取り組みを引用しつつ、次の言葉を添えています。

 

本当の店とは
商人が儲けるところではない
お客様に
得してもらうところと見極めよう

 

住友さんと言えば、そのキャリアの始まりは雑誌編集者でした。1981年にタウン誌「あわわ」を創刊、徳島の街の暮らしに役立つハッピーな情報を提供するメディアは今も市民に愛され続けています。そしてふたたび、住友さんは新しい雑誌を創刊しています。隔月刊誌「ぐ~す~月刊とくし丸」創刊号(2023年8-9月号)の巻頭、創刊の言葉「はじめまして。」で住友さんはこう記しています。

 

「地震に原発、ウクライナにアフガニスタン、地球温暖化。さらに政治不信や経済不安と、世の中には胸の詰まるような出来事が、途切れることなく続いています。
それでも私たちの暮らしは、日々現実のものとして進んでいきます。そんなテーマもほんの少しだけ織り交ぜながらも、毎日の生活がより充実したものとなるように、この雑誌を皆さんにお届けしたい。そう考えて、創刊します。
食べる、働く、排泄する、寝る。そして、喜ぶ、怒る、愛する、楽しむ程度の差こそあったとしても、どれだけ生きるかではなく、どう生きるのか。歳を重ねるごとに、そんなことを考えはしませんか?
そんなアナタを少しだけサポートできればと思い、この『ぐ〜す〜月刊とくし丸』を創刊します。」

 

この一文からもわかるように、住友さんの商いの姿勢は常に「毎日の生活がより充実したものとなるように」にあります。「あわわ」にも「とくし丸」でも一貫してそれは変わりません。新雑誌「とくし丸」は全国を走る移動スーパーとくし丸(8月26日現在1148台)と」その提携スーパーの店頭で販売しているとのこと。ユーモアと主張、読者とのあたたかな交流のある誌面で280円。ぜひ皆さんにも読んで、育ててほしい雑誌に久しぶりに出会いました。

 

 

さて、本題。「商売とはあなたが人生する姿である。商人としてあなたの姿のうちに御仏を見たいのである」とは、倉本とともに商人を導いた岡田徹の遺した一文。「目先の利益にとらわれず、地域が豊かになる仕組みをつくりたい」という住友さんの志を聞いたとき、私はこの先人の言葉を思い出しました。本当の商いとは、相手に得をしてもらうところから始まり、幸福を提供し続けることを使命とするのです。

 

この記事をシェアする
いいね
ツイート
メール
笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

新刊案内

購入はこちらから

好評既刊

売れる人がやっているたった4つの繁盛の法則 「ありがとう」があふれる20の店の実践

購入はこちらから

Social Media

人気の記事

都道府県

カテゴリー